コロンビア、半世紀の内戦に終止符へ

 過去半世紀以上にわたり、内戦で多くの犠牲者を出してした南米コロンビアにおいて、和平合意の機運が高まっている。
(サンパウロ・綾村 悟)

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国連総会でコロンビア和平の重要性を訴えるサントス同国大統領(国連ニュースセンター/UN Press)

 南米コロンビア政府と南米最大の左派武装ゲリラ「コロンビア革命軍(FARC)」は先月23日、両者間の和平交渉が行われているキューバの首都ハバナにおいて、今後6カ月以内に和平交渉の最終合意を締結することで一致した。

 1960年代に始まったコロンビアの内戦は、半世紀を超えて続いてきたが、これまでに内戦で22万人以上が犠牲となり、500万人以上が住処(すみか)を失うなど、同国とその国民に深い傷を与えてきた。

 和平交渉は、キューバやノルウェー、国際赤十字などを仲介として2012年11月から続いているが、今回は、コロンビアのサントス大統領が交渉に初参加、コロンビア革命軍のティモチェンコ最高司令官とのトップ交渉で、さらなる長期化が懸念されていた和平交渉を一気に進展させた。

 3年近く続いてきた和平交渉では、農地改革や地雷処理問題などで進展が見られたが、内戦中の人権侵害とその処罰、また内戦被害者への救済などに関してなかなか合意が得られずにいた。

 今回の合意では、内戦中の深刻な人権侵害に対して特別法廷を設置することや、和平合意に向けた特別法を設定し、一定の人権侵害事案や反政府的な行為などを特赦とする代わりに、深刻な人権侵害や戦争犯罪に対しては、恩赦を適用外とすることなどが盛り込まれている。

 ただし、罪を訴求する場合においても、深刻な人権侵害に関わったものが自発的に罪を認めた場合には、一定の自由を8年間剥奪し、かつ社会奉仕に従事させることで社会に対する贖罪を行わせるとの案が出ている。さらに、自発的に罪を告白しなかった場合には、特別法廷で最大20年の懲役刑に処することとなっている。

 和平交渉後、サントス大統領は「米大陸で最も長く続いてきた内戦が終わる記念すべき日だ」と発言、ゲリラ側のティモチェンコ司令官も、コロンビア国内のゲリラ構成員に向けて「和平合意に参加するように」と呼び掛けた。

 今回、和平交渉進展の立役者となったのが、先月20日からキューバや米国を歴訪していたローマ法王だ。フランシスコ法王は、キューバの首都ハバナで行ったミサでコロンビアの和平交渉に言及、「(コロンビアの)和平と和解への道が閉ざされるようなことがあってはならない」と強く訴えた。

 法王のこのメッセージに強く反応したのが、コロンビアのサントス大統領だ。今回の和平交渉では当初、サントス大統領の参加は予定されていなかったが、法王のメッセージ後に急遽(きゅうきょ)サントス大統領がキューバ訪問を決めた。バチカンが、今回のコロンビア和平交渉の仲介役として強い影響力を及ぼしていたことが分かる。

 コロンビア政府とFARCは、2016年3月23日までに最終合意に至ることになっており、合意後60日以内にゲリラ側が武装解除に応じる。

 武装解除後には、和平合意の内容にもとづいて、特別法廷による裁判や処罰だけでなく、土地問題の解決や内戦・人権侵害の被害者救済、地雷の撤去や左派ゲリラ構成員の「社会復帰」など長期にわたって「内戦で疲弊した」コロンビアを癒やす活動が続くことになる。

 半世紀もの間、ゲリラ活動を続けてきた「コロンビア革命軍」をコロンビアの民主システムに参加させるためのプロセスも必要になる。

 欧米諸国や国際刑事裁判所(ICC)などの国際機関などからは、今回の和平交渉を歓迎する多くの声があがっているが、一方で、アムネスティ・インターナショナルなどの国際人権団体は、人権侵害に対する処罰規定が軽すぎると批判している。

 さらには、1990年代に強い影響力を誇示していた左派ゲリラの弱体化に成功したウリベ前大統領(現上院議員)は、現在進行している和平交渉を一貫して「左派ゲリラを利するだけだ」と批判、ゲリラ弱体化とより厳しい交渉内容の提示を主張している。

 ただし、サントス大統領が国連総会の場で「世界の紛争解決のモデルケースになる」などと演説したように、和平が実現すれば強烈なインパクトをコロンビアの国内外に与えることは間違いない。

 コロンビア革命軍(FARC) 南米最大の反政府ゲリラ組織。1964年にマルクス・レーニン革命を目的として創設、最盛期には1万5000人以上の武装構成員と麻薬売買関与で得た豊富な資金力で政府軍を圧倒、コロンビア国内の3分の1以上を支配下におさめていた。現在の武装構成員は約8000人。