リオ五輪、「低コスト」に舵
深刻な経済不振に陥っているブラジルが、来年8月に予定されているリオデジャネイロ夏季オリンピック(リオ五輪)開催に向け、「低コストオリンピック」を目指して本格的に舵(かじ)を切り始めた。(サンパウロ・綾村 悟)
不況深刻 「贅沢」に国民の理解得られず
リオデジャネイロ夏季五輪組織委員会は6日、開催準備の進捗状況を報告するとともに、予算超過を防ぐため、運営費等の削減を図る考えを明らかにした。コスト削減は最大で3割にも及び、オリンピックとパラリンピックを合わせた予算を36億㌦(約4300億円)以下に抑えるという。
リオ五輪は開催まで1年を切っているが、組織委員会による運営予算目標の36億㌦は、2008年に開催された北京五輪の430億㌦(約5兆1000億円)や12年のロンドン五輪の400億㌦(約4800億円)に比べて10分の1以下という低予算だ。
今回、リオ五輪の組織委員会が、コスト削減を切り出した背景には、未曽有の経済難と政治不信に苦しむブラジルの国内事情がある。ブラジルは、深刻なインフレと通貨安、高い失業率などを伴った不況が国民の生活を脅かす一方で、国営石油会社のペトロブラスに絡んだ過去最悪の汚職疑惑で多くの政治家が逮捕され、国民の政治不信が限界にまで達している。
リオ五輪では当初、施設建設やオリンピック運営に民間の資金が投入されることが決定されており、資金超過分に関しては国が援助を行う予定だった。
しかし、不況と政治不信が渦巻く中で、組織委員会は支出を再検討する必要に迫られていた。競技チケットの販売も500万枚のうち200万枚にとどまっており、ブラジル国内でのオリンピックへの関心は不況の影響などもあって高まりに欠けている。
こうした中、マリオ・アンドラーダ広報部長は、6日の記者会見で「ブラジル国民はこれ以上の支出を容認できない」「経費削減に向けて創造的な運営が必要だ」と言明、コストカットに向けた緊急会議を開いていたことを明らかにした。
リオ五輪が予算削減に舵を切った背景には、13年6月に開催された「コンフェデ杯」の前後にブラジル全土で行われた反政府デモの教訓もある。
当時、予想を超えて膨れ上がった巨額なW杯スタジアム建設費とインフラ整備費に多くの国民が反発、ブラジル全土で100万人を超える人々が反政府デモに参加して、W杯の中止やW杯開催費用を医療や教育などに回すように訴えた。
現在、ルセフ政権は一桁台の支持率で弾劾裁判の危機にひんしており、とても13年のような反政府デモの再発を許容することはできない。
アンドラーダ氏は、コストカットによる競技やアスリートへの影響はないと断言、大会ボランティア運用に必要なコストの調整やテスト大会の規模縮小、仮設施設の削減や開閉会式のコスト削減などを通じて予算削減を達成する方向だと説明している。さらには、リオ五輪のコマーシャルビデオなども広告代理店などに外注せず、組織委員会で製作することを検討しているという。
組織委員会による、ロンドンや北京五輪の10分の1以下という野心的な予算案に対して厳しい見方をする関係者も少なくない。
ただ、近年のスポーツイベントの巨大化と高騰化に歯止めをかけるという意味でも、「コンパクトな五輪」を目指している東京五輪も合わせて、リオ五輪組織委員会の試みに関心が高まっている。











