配車アプリ「ウーバー」 ブラジルのタクシー業界が猛反発
暴行事件に発展、条例規制も
スマートフォン経由でタクシーやハイヤーに相当する配車サービスが安価に利用できるとして、タクシー業界に革命をもたらしたと言われる配車アプリの「Uber(以下ウーバー)」だが、ブラジルでは既存の業界が強く反発、反対デモや行政による規制に加え、相次ぐ暴行事件にまで発展している。(サンパウロ・綾村 悟)
配車サービスを行う「ウーバー」は、ブラジルでは昨年3月、夏季オリンピック(2016年8月)の開催都市リオデジャネイロでスタートした。サンパウロでは、昨年6月からウーバーの高級版として知られる「ウーバー・ブラック」が導入され、首都ブラジリアや南部のベロ・オリゾンテ市も続いた。
ウーバーは、サンパウロやリオデジャネイロでは黒塗りの高級セダンをサービスに使用している。サービス開始当初、ブラジルのトップモデルとして知られるアレッサンドラ・アンブロジオがウーバーを利用して当時ブラジルを訪問していた英国ヘンリー王子のパーティーに参加したことから、ウーバーへの注目度が高まった。
また、ウーバーが行っているミネラルウォーターの無料サービスに加え、主要空港向けの利用価格を既存タクシーより安価におさえていることなどから、メディアやソーシャルネットワークにおいて、既存のタクシーに対抗するサービスとして関心が高まっていた。
ただし、ブラジルで利用されているウーバーは、基本的には営業車として登録されていない自家用車の利用に頼っている。それだけに、タクシー業界は、ウーバーのブラジル参入以前から強い危機感を抱いていた。
一般的に、タクシーなどの配車業は行政による指導や規制を受ける立場にあり、タクシー業界の権益確保が同時に行われることが少なくない。
ブラジルにおいてもそれは同様で、各行政区が受け持つタクシーの営業許可の枠は、既得権と化している。タクシーの運転手は、基本的にその枠を購入するか営業権付のタクシーなどを配送業者から借りて運行する。人気の高い地区となれば、相当額の賃貸料を払う必要があり、それだけに、こうした規制や投資を課せられることなく事実上の新規参入者となっているウーバーに対して反発も強くなる。
タクシー関係者は今年4月、リオデジャネイロやサンパウロなどの各都市でウーバーに反対するデモを行い、サンパウロでは5000人のタクシー運転手が集まり行政に圧力をかけた。ウーバーの配車行為を営業登録のない「海賊行為」だと批判、ウーバーに対する規制を求めた。
サンパウロ州の裁判所は4月28日、「ウーバー」アプリの使用を国内で禁止するとの判断を示し、グーグルやアップルに対して、ブラジル国内での同アプリの配信を中止するように求めた。ただし、この判断は5月に入ってから覆されており、そのために、タクシー業界はサンパウロ州やリオデジャネイロ州の議会に対してウーバーに対する行政措置を取るように働き掛けた。
今月7日、ベロ・オリゾンテ市でウーバーを利用していた利用者が、タクシー運転手らに襲撃されて怪我(けが)を負うという事件が発生、同乗者にメディア関係者がいたことから注目を集めた。
その翌日、今度はサンパウロ市内でウーバの契約ドライバーがタクシー運転手らによって拉致された上で暴行を受ける事件が発生した。現地報道によると、当初は約20人のタクシー運転手らがウーバーアプリを通じて契約ドライバーを呼んで抗議をしようとしたが、その中の4人が契約ドライバーを銃で脅しながら暴行を加えたという。
暴行を加えた容疑者らのタクシー営業許可は取り上げられることが決まったが、タクシー運転手らが契約ドライバーの車を投石などで完全に破壊したこともあり、ウーバーをめぐる課題やトラブルがこれまで以上に大きくクローズアップされることになった。
ヒートアップしているブラジルでのウーバーとタクシー業界の対立だが、リオデジャネイロのパエス市長が今月13日、アプリ配車サービス「ウーバー」に対する規制条例案に署名、同日付で施行されることになった。
同条例はウーバーを締め出すものとなっており、ウーバーアプリを利用して乗客を乗せたことが判明した場合、契約ドライバーは1360レアル(約5万円)の罰金と自家用車の一時没収措置を受けるというもの。サンパウロ市においても、同様の条例案が議会通過を待っている。