オバマ政権の対「イスラム国」戦略に批判強まる

地上部隊の派遣求める声

 米軍主導の有志連合が昨年8月に過激派組織「イスラム国」(IS)への空爆を開始してから、まもなく1年。これまでに約5000回の空爆を実施したものの、ISは支配地域を広げるなど掃討作戦は大きな成果を上げているとは言えず、オバマ政権の対IS戦略に批判が強まっている。(ワシントン・岩城喜之)

空爆の効果は限定的

計画の遅れ認める政府高官も

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米国防総省で、カーター国防長官(右から2人目)らから過激派組織「イスラム国」掃討作戦について報告を受けるオバマ大統領(右端)=7月6日(UPI)

 「我々は(ISとの)戦いに敗れつつある」

 7日、野党共和党のジョン・マケイン上院議員は上院軍事委員会で開かれたカーター国防長官らの公聴会で、オバマ大統領の対IS戦略を厳しく批判した。

 マケイン氏はIS掃討の明確な方針を示せないオバマ氏について、「妄想にとりつかれている」とまで述べ、最高司令官としての能力に疑問を呈した。

 オバマ政権の対IS戦略は、地上作戦を現地の部隊に担わせ、米軍は限定的な空爆を行うことを柱としている。

 派遣されている約3500人の米軍は、現地部隊を指導したり戦術面の助言を与えるだけで、行動は大きく制限されている。

 米紙ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)は「多くの軍当局者は、基地外での活動が制限されていることが対IS戦略を制約しているとみている」と指摘する。

 オバマ氏は空爆のために地上で情報収集をする部隊(空爆誘導要員)の投入も否定しており、限定的な効果しか出せない空爆に「疑問が生じている」(米紙ワシントン・タイムズ)。

 公聴会でマケイン氏は、地上の情報が不足しているために爆弾を投下することなく基地に戻る戦闘機が4分の3に上っていることに触れ、「いまの空爆は根本的な問題を抱えている」と批判。「大統領はISを掃討すると長々と演説したが、目標を達成するために政府が現在やっていることは不十分で、説得力がない」とまくし立てた。

 公聴会では、年間5400人のシリア反体制派を訓練する計画が、7月上旬までにわずか60人しか実施できていない状況も明らかになった。

 計画と現状が大きく乖離(かいり)していることに、共和党のジョン・ベイナー下院議長は「大統領の戦略はまったく機能していない。より多くのシリア兵の訓練を急ぐ必要がある」と訴えている。

 米軍による訓練が遅れているのは、シリアだけではない。イラクでも今秋までに2万4000人の治安部隊を訓練するとの目標を掲げていたが、国防総省は23日になって、ようやくイラク政府軍約3000人が対IS作戦に参加したと発表した。

 現地部隊の育成は米政府高官でさえ、「(目標の)達成は難しい」と認めざるを得ないほど遅れている上に、イラク西部アンバル州の州都ラマディが陥落した際に逃げ出したイラク軍の実力を疑問視する声もある。

 イラク軍について「戦う意思が見られない」と酷評したカーター長官は、「ラマディを奪還できるかどうかが、イラク軍の能力を示すテストになるだろう」と述べ、慎重に実力を見極める方針だ。

 IS壊滅の道筋さえ見えない中、地上部隊投入を求める声が高まっている。

 2016年の米大統領選に出馬表明している共和党のベン・カーソン氏は「必要に応じて、地上部隊の派遣もすべきだ」と強調。同じく共和党の候補者指名争いに名乗りを上げているオハイオ州のジョン・ケーシック知事も「空爆だけでは問題を解決できない」として、戦闘部隊投入も視野に入れるべきだとしている。

 NBCテレビとWSJが6月中旬に共同で行った世論調査では、短期間を含む米軍の戦闘部隊派遣に賛成する米国民は60%に上った。

 対IS掃討作戦が一進一退の「こう着状態」(ロバート・ネラー海兵隊総軍司令官)が続いていることで、ISによる米国本土へのテロの脅威も高まっている。

 米連邦捜査局(FBI)のジェームズ・コミー長官は「ISはアルカイダより脅威だ」との認識を示し、全米で警戒レベルを引き上げている。

 だが、オバマ氏はISとの戦いについて「長期戦になる」と述べるなど、残り約1年半の任期中に壊滅に追い込む積極的な姿勢を示していない。

 作戦が計画通り進んでいないのは、そうした大統領のスタンスが原因だとの見方もある。

 保守系シンクタンク、ヘリテージ財団のジェームズ・フィリップス上級研究員は、オバマ氏について「切迫感が欠如している」と問題視。さらに「現在の方法ではISを掃討できない。地上軍の役割を拡大すべきだ」とし、戦略の練り直しを求めている。