汚職続きでブラジル国民の不満頂点に
ブラジルを揺るがす巨大な汚職事件の発覚と追及が続いている。特に今回の汚職疑惑は、ブラジルの国技とも言われるサッカー界のトップに加え、公企業や政界トップをも巻き込んだものとなっており、国内の批判はこれまでにないものとなっている。(サンパウロ・綾村 悟)
サッカー界トップ逮捕に衝撃
期待の石油公社も巨額負債
ブラジルでは、政界や各種組織に汚職はつきものとも言われてきた。賄賂に関する隠語も「ピザを買う・渡す」「コーヒーを(いくつ)買う」など、多岐にわたるという。しかし、今回の汚職疑惑は格別で過去に類をみないものとなっている。
その一つが、加盟国数や運営規模において今や世界最大の組織の一つに成長した国際サッカー連盟(FIFA)を巻き込んだ巨大汚職事件だ。
米司法当局が捜査の手を伸ばし、FIFAのワーナー副会長逮捕にまでいたった事件では、サッカーW杯ブラジル大会の開催時にブラジルサッカー協会(CBF)の会長を務めていたジョゼ・マリア・マリン前会長が逮捕されただけでなく、マリン氏と昵懇(じっこん)の仲だったと言われる現ブラジルサッカー協会会長のデルネロ氏に対する批判と辞任要求にまでエスカレートしている。
ブラジルはサッカーW杯において最多5度の優勝回数を誇る「サッカー王国」。サッカーの王様ペレや怪物ロナウド、名門バルセロナのスター選手・ネイマールなどを次々と輩出してきた。ブラジルにおいてサッカー選手はスターであり、子供たちの尊敬や国民の期待を一身に集める存在。そのブラジルサッカー界のトップが汚職に関与していたという事実は、「政界だけでなくスポーツ界も汚職まみれだったのか」というブラジル国民の憤りにつながっている。
当然のことながら、ブラジルメディアも連日のごとく報道しており、報道内容やコメンテーターたちの批判の言葉は、日本での報道とは比べ物にならないほど強いトーンになっている。
また、ブラジルサッカー協会の汚職疑惑に関しては、ルセフ大統領自らがブラジル連邦警察に徹底捜査を指示しただけでなく、現在、上院議員として活躍している元ブラジル代表選手のロマーリオ氏が「すべてを明らかにする」と国会に調査委員会を設置したほど。ロマーリオ氏は、過去においても、ブラジルW杯の準備をめぐる汚職疑惑などでブラジルサッカー協会を厳しく批判してきた過去があり、その歯に衣を着せない発言は、相次ぐ汚職疑惑に憤るブラジル世論から強い支持を集めている。
ブラジルで問題となっている汚職疑惑はこれだけではない。ブラジル最大の石油公社ペトロブラス絡みの汚職事件は、下請け企業20社や与野党の政治家を巻き込んだブラジル最大の汚職事件に発展した。
同事件では、与党・労働党の幹部や上下院国会議長を含む50人近くの国会議員が汚職に関わったとして捜査対象となり、最近ではペトロブラスの元幹部が禁錮5年の実刑判決を受けた。同企業の汚職疑惑に関連する賄賂は、総額で2500億円にも上ると言われるほどだ。
ペトロブラスは、ブラジルがBRICS(新興5カ国)の一つとして世界的にもてはやされる中、その世界有数とも言われた海底油田(プレサル)ゆえに、ブラジル経済の未来を象徴する企業の一つとして大きな期待を集めた。
しかし、今年4月に発表された2014年9月期の決算では、2兆円もの特別損失を計上するという巨額の負債を抱え込んでいることが明らかになった。ペトロブラスは、最近の原油安も含めて収益体質が悪化しており、損失の穴埋めには資産の売却さえもやむをえない状況だといわれる。
ペトロブラスの海底油田やサッカーは、ブラジル国民に多くの夢や希望を与えてきた存在であり、そのトップが政界ぐるみの汚職に関わってきたという事実は、ブラジルを代表するスポーツや企業に大きな汚点を残した。
ただでさえ、ブラジルは、未曾有の接戦となった昨年10月の大統領選挙を経て、景気後退とインフレという二重苦に苦しんでいる最中だ。今年に入ってからは、大規模な大統領退陣デモも続いており、相次ぐ汚職事件で国民の不満は頂点に達しようとしている。
昨年6月に開催されたサッカーW杯の興奮は、ブラジルでは過去のものとなった。来年8月には、リオデジャネイロで南米初の夏季オリンピックが開催されるが、同オリンピックに関しても、建設資金などの問題で疑惑が持たれており、もし、オリンピックに絡んだ汚職が明らかになった場合には、夏季オリンピック開催に大きな波紋を投ずることになろう。






