アップル、ウォルマート、スタバ… 左翼圧力団体と化す米大企業
同性愛者擁護で宗教自由法反対
中国の人権侵害無視する「偽善」
米国の大企業が社会問題で左翼勢力の圧力団体と化している。先月下旬から今月初めにかけ、全米を巻き込む騒動となったインディアナ、アーカンソー両州の宗教の自由を擁護する法律をめぐり、猛反発する左翼・同性愛者勢力に同調し、州に圧力を掛けて法律を修正させる流れをつくったのが、アップルやウォルマートなど大手企業だ。海外では中国などの深刻な人権侵害に目をつぶりながら、米国内では同性愛者のために経済的影響力を振りかざす企業経営者に対し、保守派からは「偽善者」との激しい批判が出ている。(ワシントン・早川俊行)
両州での騒動の発端となった「宗教の自由回復法」は、やむを得ない利益がない限り、政府は宗教の自由を侵害してはならないとするごく常識的な内容だ。にもかかわらず、左翼勢力は宗教の自由を盾に同性愛者への差別が容認されるなどとヒステリックに反発したため、全米レベルの議論へと発展した。
宗教の自由回復法は決して目新しいものではない。両州の法律のモデルになったのが、1993年に成立した同名の連邦法だ。下院は全会一致、上院は100人中97人が賛成、当時のクリントン大統領の署名を経て成立した。宗教の自由を支持する超党派の合意に、異論を挟む者はほぼ皆無だった。
最高裁判所がこの連邦法は州・地方政府には適用されないとの判断を示したため、州レベルで宗教の自由回復法を制定する動きが広がった。インディアナ、アーカンソー両州の前に同法を制定した19州では、今回のような騒動は起きていない。
宗教の自由回復法が成立したとしても、信仰を理由に何をしても構わないというわけではない。左翼勢力が主張するような、レストラン経営者が同性愛者の入店を拒むことが容認されるわけでもない。そのような差別行為が同法を根拠に許容されたケースは過去に一度もない。
宗教界が同法の成立を強く求めるのは、近年、同性婚の写真撮影やフラワーアレンジメント、ウエディングケーキ作りなどを断ったキリスト教徒の事業者が訴えられるなど、社会的制裁を受けるケースが全米各地で相次いでいるためだ。宗教的信念に反し、同性婚に強制的に賛同させられることがないよう法的保護を求める声が強まっていた。
だが、両州の法律は左翼勢力の反発で修正を余儀なくされた。特にインディアナ州の法律は、修正によって信教の自由より性的指向が優先される内容になり、逆に同性愛者団体が法律を歓迎する結果に。左翼勢力の“宗教迫害”から法的保護を求めるキリスト教徒にとっては何の役にも立たない法律になってしまった。
中でも、修正の決定打となったのが大手企業による圧力だ。左翼勢力の主張に同調する企業が両州での事業や投資を見直すなどと圧力を掛けたため、それまで法律を擁護していた共和党知事と議会も、地元経済への悪影響を恐れて腰砕けになった。
自身が同性愛者であることを公言しているアップルのティム・クック最高経営責任者(CEO)は、ワシントン・ポスト紙に寄稿し、「店のドアや水飲み場、トイレに『白人だけ』と書かれたサインに特徴付けられる人種隔離や差別は過去のものにしなければならない」と主張した。
クック氏ほどの人物なら、宗教の自由回復法が同性愛者への差別を許容するものでないことは分かっているはずだ。だが、同法を南部で1960年代まで続いた黒人隔離政策と同列に位置付けるなど、極端な主張を繰り広げる左翼活動家とほとんど変わらない。
有力シンクタンク、ヘリテージ財団のライアン・アンダーソン上級研究員は「この議論で差別に賛成している唯一の人物はクック氏だ」と指摘し、社会的制裁を受けるキリスト教徒への差別を容認するクック氏を非難した。
また、保守系ニュースブログ「レッドステート」は、クック氏がインディアナ州などを同性愛者に敵対的だと批判しながら、同性愛を違法とするイスラム諸国や人権侵害の著しい中国などで事業を行うことは問題にしないダブルスタンダードぶりを追及。「クック氏がこれらの国々の差別行為に反対したことはあるか。一度もない。彼は自分が安全で大事なものが危険にさらされることがない時にだけ、その問題を取り上げる最悪の偽善者だ」と痛烈に批判した。
このほか、アーカンソー州に本社を置く小売業最大手ウォルマート・ストアーズ、インディアナ州に本社を置く製薬大手イーライ・リリー、医療保険大手アンセムをはじめ、スターバックス、アメリカン航空、ナイキ、オラクル、セールスフォース・ドットコムなどの大企業が宗教の自由回復法に反対した。
一方、同性愛者の権利拡大に積極的なオバマ政権もインディアナ州批判に加わったが、オバマ大統領はイリノイ州の上院議員時代、宗教の自由回復法に賛成している。