元同僚は「理論でさえもない」 ホーキングの多重宇宙理論

進化論vsID理論 20年戦争 (9)

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2008年4月、米ワシントンにあるジョージ・ワシントン大学で講演する英理論物理学者スティーヴン・ホーキング博士=UPI

 ギエルモ・ゴンザレス博士(宇宙生物学)がアイオワ州立大学から追放された事件が象徴するように、宇宙というテーマも20年戦争の“最前線”の一つである。

 宇宙に関するインテリジェント・デザイン(ID)理論の代表的なものは、ファインチューニング(微調整)だ。これはID運動が始まる前から複数の物理学者によって言われていたが、ID陣営の啓蒙活動によってより多くの人に知られるようになった。

 ニュートンの万有引力の法則に出てくる重力定数をはじめとして定数や物理量は30以上ある。重力定数以外によく知られているのは、光の速度、宇宙の膨張速度、強い力の定数、弱い力の定数、電磁力定数などだ。

 驚くべきことに、物理学者たちが調べた結果、これらの定数、物理量の数値それぞれが少しでも上下にずれると現在の生命に適合した宇宙(生命に不可欠な重い元素群も含め)は出現することができなかった。ラジオはその周波数にピタリと合わせないと聴けないように、われわれの宇宙もちょうどいい数値に微調整されているということである。微調整できる存在は少なくとも“知的存在”であろう。

 これに対してファインチューニングを帳消しにすべく、複数の理論物理学者が出してきたのが、量子論から導いた多重宇宙理論だ。アレキサンダー・ビレンキンやスティーヴン・ホーキングらが有名だが、テレビや啓蒙書で知られるホーキング博士は2010年に出版した『The Grand Design』でそれを解説している。

 主要なポイントは、宇宙は無から物理法則と偶然から生まれたのであり、知的存在あるいは神を持ち出す必要はない、というものだ。

 具体的には、物理法則と偶然によって10の500乗個もの宇宙が生まれたから、その中でわれわれのファインチューニングされた宇宙も“偶然”生まれることができた、という説明である。

 これには宗教界からの反発が巻き起こっただけではない。ホーキング博士とかつて一緒に仕事をしたことがある英理論物理学者ロジャー・ペンローズ博士は、「科学でもなく理論でさえもない。むしろ期待とアイデアと熱望が合わさったものだ」と一蹴。ID運動の拠点「ディスカヴァリー研究所」上級研究員のブルース・ゴードン博士(科学哲学)は米紙ワシントン・タイムズに寄稿し、真の説明を放棄しており、「数学的幻想」であると批判した。

 サイエンティフィック・アメリカン誌2011年8月号では、ケープタウン大学の宇宙学者ジョージ・F・R・エリス博士が論文で「(多重宇宙は)たとえそれが存在するとしても科学はそれを発見する方法を持たない」と指摘した。

 一歩引いてみると、ホーキング氏らの理論の弱点が浮かび上がってくる。スティーヴン・マイヤー博士の著書『細胞の中の署名』が詳述したように、生命の起源はID理論が最もよく説明できる。だが、ホーキングの理論は、高等数学を駆使して導かれたものであってもその本質は偶然に依存し知的原因を一切排除しており、生命の起源を説明することができない。ファインチューニング、生命の起源もID理論のほうが整合性よく説明できるのである。

(編集委員・原田 正)