「偶然の過程」の限界指摘 人類の起源に関するID派の本

進化論vsID理論 20年戦争 (8)

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ID派のアン・ゲイジャー博士ら著『科学と人類の起源』

 人類はどこから来たのか――。人類の起源はいかなる人も多かれ少なかれ関心があるが、人間存在の意味と深くかかわるだけに科学の視点からも慎重に扱わなければならないテーマである。

 だが、ダーウィン進化論は人間を「偶然の産物」「頭のいいサル」レベルに貶めてしまった。共通の祖先の“サル”から、偶然の積み重ねのプロセスによって約700万年前に枝分かれし、一方はチンパンジーに、一方は人間になっていったという“ストーリー”をあたかも事実であるかのように教科書で教え続けているのである。

 これに対してID派のアン・ ゲイジャー博士(発生生物学)、ダグラス・アックス博士(分子生物学)、ケーシー・ラスキン氏が2012年に出版した『科学と人類の起源(SCIENCE & HUMAN ORIGINS)』(写真参照)は強力な反論になっている。

  例えば、同書でゲイジャー博士は、約400万年前に現れたアウストラロピテクスと、約190万年前に出現したホモ・エレクトスの間の情報の差は偶然では説明できないと論証している。

 アウストラロピテクスは直立歩行はしていたものの、完全なものではなく、多くの特徴がチンパンジーに近い。これに対して、ホモ・エレクトスは脳は現生人類よりも小さいが、その他の特徴は現生人類とよく似ていて、完全な直立歩行をしていた。この二つの間を埋める化石は見つかっていない。しかも、この移行が完結するためには、16カ所の形態的な変化を必要とする。

 これらの変化がダーウィン進化論で言う偶然のプロセスによってすべて起きたとするなら、それぞれの形態的変化をもたらす複数の突然変異が集中的に起こる必要がある。つまり、ホモ・エレクトスへの移行に不可欠な16カ所の形態的変化のためにはかなり多数の変異が協奏的に起きる必要があるのである。

 問題は数百万年というレベルの時間内にこのような協奏的突然変異(coordi‐nated mutations)が起きる可能性があるのか、ということである。

 同書はそれがあり得ないと結論づける。というのは、ゲイジャー、アックス両博士の共同実験研究によると、比較的速く増殖する大腸菌の場合でさえ、宇宙の歴史137億年を費やしたとしても、協奏的突然変異はたった6個が限界。7個となると10の27乗年という宇宙の歴史よりも桁違いの長い時間が必要なのである。

 ましてや大腸菌よりも増殖速度が遅く、一世代の子孫の数も少ない霊長類では、協奏的突然変異の限界の数は少なくなる。したがって、数百万年以内に16カ所の形態的変化が起きたことによるアウストラロピテクス型の生物からホモ・エレクトス型の生物への移行は「偶然のプロセス」ではまったく説明できないのである。

 共通の祖先の“サル”から約700万年前に枝分かれして少しずつの「偶然のプロセス」によって一方はチンパンジーに、一方は人間になっていったという“ストーリー”では説明がつかない事実はこれだけではない。進化論者はチンパンジーと人間でDNAに共通部分があることを強調するが、Y染色体のDNAなどで、チンパンジーと人間の間には劇的に違う部分が多いのである。

 “サル”からの段階的な人間への移行に対する「偶然のプロセス」による説明は急速に色あせ、「知性による段階的イノベーション」が説得力を増しているのである。

(編集委員・原田 正)