ID理論支持率52%にも ダーウィンイヤーの悪夢

進化論vsID理論 20年戦争 (6)

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2007年、米シアトルのディスカヴァリー研究所で講演するスティーヴン・マイヤー同研究所科学文化センター長

 インテリジェント・デザイン(ID)理論側が前進した新展開としてまず挙げられるのは、2009年に出版されたID派科学者リーダー、スティーヴン・マイヤー博士著『細胞の中の署名』だ。チャールズ・ダーウィンの『種の起源』出版150年の節目に当たる年に登場した同書は、生命の起源というテーマで500ページの大著であったが、ロンドン・タイムズ書評紙でベスト・ブックス・オブ・ザ・イヤーに選ばれる。

 現代科学の生命の起源についての仮説は、原因として偶然か必然を、あるいは両方を考えに入れ、デザインは最初から排除している。

 マイヤー博士は、原始地球の無機物から偶然にアミノ酸などが生じ、段々と単細胞生物に進化していったとする「オパーリンの化学進化説」から始めて一つ一つ検証。そのいずれも証拠に照らして欠陥があると指摘し、最初の生命に不可欠な情報の起源は知的存在にあると推定するID理論のほうが優れていると説く。ダーウィンが『種の起源』においてとった説明力の比較という手法を用いているのが同書の特徴だ。

 同年秋には、DVD『ダーウィンのジレンマ』がリリースされた。これは前述したようにカリフォルニア科学センターがIMAXシアターでの上映イベントの契約を突然キャンセルし、訴訟になった発端のDVDである。

 5億4300万年前の古生代初期に、三葉虫などが突如出現した壮大な出来事カンブリア爆発は「偶然のプロセス」では説明できず、「導かれたプロセス」によって最もよく説明できることをビジュアルなアニメーションなどを通してよく理解できるようになっている。

 ダーウィン陣営にとっては本来、2009年は特別な年であったはず。150周年を記念してダーウィン進化論を支持する本の出版が相次いだほか、『ダーウィン展』などのイベントが世界各地で開催され、特集番組なども多く制作された。しかし、それに反して米世論は彼らにとって悪夢のような結果になっている。

 米調査会社ゾグビーが2009年1月に実施した世論調査によると、ID理論を支持する人が52%、「導かれないプロセス」(ダーウィン進化論の標準的な定義)を支持する人は33%にすぎなかったのである。

 また、同調査では、「学校ではダーウィン進化論だけでなく、それに対する反論も同時に教えるべきだ」という意見を支持する率が78%に上り、前回の06年調査に比べ、9ポイントも上昇している。

 ダーウィン進化論陣営に理論的攻撃を加える本は『細胞の中の署名』に続き、2011年にジョナサン・ウェルズ博士著『ジャンクDNAの神話』、12年にはダグラス・アックス博士ら著『科学と人類の起源』が出版されたが、これらについては後述する。

 ID運動はもはや米国だけのものではなくなってきている。2010年9月には、ノーマン・ネヴィン英クィーンズ大学名誉教授(臨床遺伝学)を所長に英国IDセンター(C4ID)が創設された。翌年、マイヤー博士が同センター創設記念バンケットに招かれて、議員や科学者ら90人を前に講演。

 ID運動はダーウィンの母国をも揺るがし始めているのである。

(編集委員・原田 正)