優れた説明力と合理性 ID派が武装した理論
進化論vsID理論 20年戦争 (4)
インテリジェント・デザイン(ID)理論の研究・普及活動を推進するID運動は、『裁かれるダーウィン』の著者、フィリップ・ジョンソン米カリフォルニア大学バークレー校法学教授が1993年夏、ダーウィン進化論に疑義を持つ11人の科学者を呼び集め、米西海岸でセミナーを開いたのが始まり。参加者は後にID理論をリードする科学者たちであった。
スタートして7年くらいの間に理論武装していくが、先陣を切ったのが米リーハイ大学教授マイケル・ビーヒー博士(生化学)。同博士は1996年、「還元不能の複雑性(Irreducible Complexity)」という特徴からデザインされたものと推定できる、と結論づける理論を本を出版して公表した。
ビーヒー博士によれば、「還元不能の複雑性」とは、5個のどの部品が欠けても機能しなくなるネズミ捕り(図参照)のような特徴である。このような特徴をもつ生化学システムは、約50個のタンパク質部品が精巧に組み合わさった回転モーターである大腸菌の鞭毛モーターのほか、人間の精子の鞭毛、眼の光検知システム、血液凝固システムなど多くの例がある。
重要なことは、ネズミ捕りのような特徴の出現はランダムなDNAの変化に依存しなければならないダーウィン進化論などでは説明できないということだ。ベストな代替案は、ネズミ捕り、時計のような物が知性(人間)によってデザインされ、「導かれたプロセス」でできたのと同じように、ネズミ捕りと同じ特徴(「還元不能の複雑性」)を持つ鞭毛モーターなども知性によってデザインされ、「導かれたプロセス」でできたと推定することだというのである。
1998年には、ウィリアム・デムスキー博士(数学)が「特定された複雑性(Specified Complexity)」に関するID理論を発表。手短に言えば、「特定された複雑性」というのは、砂浜に書かれたI LOVE YOUのように複雑(偶然にできると考えた場合の確率が非常に小さく)かつ意味を持つパターンだ。この特徴を見つけることができれば、デザインされたものだと推定できるという理論である。
これはダーウィン進化論の“曖昧さ”を突く優れた説明力と合理性を備えていた。なぜなら、ダーウィン進化論者はすべてが進化してきたと豪語してきたが、生命の基本部品であるタンパク質とそれを指定した遺伝子が“デザインされたもの”だと合理的に推定できるからだ(後で詳述)。
2000年には、ID派の生物学者ジョナサン・ウェルズ博士が『進化のイコン』を出版。ダーウィン進化論者が同理論の証拠だとしていた10例は偽造、ミスリードなど全く証拠になっていないことを解説した。
これらの情報は1996年、シアトルにあるシンクタンク「ディスカヴァリー研究所」に設置された科学文化センター(CSC)のサイトを通じて提供され、ID理論とID運動は米国で急速に台頭。航空宇宙局(NASA)のジェット推進研究所(JPL)のカペッジ氏が同僚に渡したDVDも2004年にリリースされ、大衆にも浸透していく流れができていた。
これに対して、「ダーウィン進化論は150年の間に確立された真実」だなどと豪語する主流科学者たちが脅威に感じるのは当然だった。しかし、彼らがとった方法は、科学的な反論などではなく、ソ連が反体制派を弾圧したようなやり方と変わらないものであった。
(編集委員・原田 正)