「ID支持」知った後 激変 JPLの上司の態度

進化論vsID理論 20年戦争 (2)

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NASAのジェット推進研究所(JPL)=カリフォルニア州パサデナ

 ジェット推進研究所(JPL)のベテラン技術者デイヴィッド・カペッジ氏が差別を受けたとして同研究所を相手取り提訴する発端となったのは、同氏が職場でインテリジェント・デザイン(ID)理論について同僚と話し、同理論を解説したDVDをその同僚に貸したことである。

 これが上司の反感を買い、2009年3月、上司から「自分の宗教を押し付けるな」と怒鳴られて降格。11年1月には解雇されたのである。

 さまざまな証拠はカペッジ氏に有利だったにもかかわらず、カリフォルニア州最高裁は今年1月16日、判決を出し同氏の訴えを棄却した。

 この裁判でJPL側はカペッジ氏が職務規定に従わなかったとの降格・解雇理由を一貫して挙げ、同氏がID理論を支持したことを理由に標的にしたことを否定した。

 しかし、まず一つ重要なことは、カペッジ氏がDVDを同僚に貸した後、同氏に対する上司の評価が激変していることである。さらに、ID運動の拠点である米ディスカヴァリー研究所科学文化センター(CSC)の公共政策・法律アナリスト、ジョシュア・ヤンキン氏は「電子メール、証言などはIDをめぐる差別があったことを示している」と述べている。

 DVDのタイトルは、Unlocking the Mystery of Life(生命の神秘の解明)とThe Privileged Planet(特権的惑星)。最初の生命がどのように出現したかを問う生命の起源のテーマも一部で扱っている。カッシーニ計画などの研究対象には生命の起源探査が含まれており、カペッジ氏がしたことは職務規定の範囲を大きく逸脱してはいない。

 しかし、NASAも他の米科学研究機関と同様に、生命の起源に関して偶然あるいは必然(法則性)が原因とする考え方を前提としており、知性によるデザインが原因とするID理論とは相いれない。カペッジ氏に対する差別の背景には、NASAにID理論が入ってこようとする、その芽を早く摘み取っておくべきだという考えがあったとみられる。

 NASAと言えば、人類初の月面着陸をはじめとする宇宙開発で子供たちに夢を与えてきたとの印象が強い。しかし、今回のケースは、NASAの闇の部分をさらけ出させている。

 第一に世界を代表する科学機関が、科学にとって不可欠な議論の自由を封殺したことだ。科学は議論をぶつけ合うことで発展してきた。進化論vsID理論のテーマは人間の起源も含むだけに、なおさら深くトータルな議論が行われるのが当然であろう。

 また、最近の米国世論調査では、進化論とID理論など進化論への反論を両方教えるべきだという意見が主流になっており、NASA、JPLは世論にも背を向けているのである。

 第二に、連邦予算で運営されている科学機関が、合衆国憲法で保障された自由を侵害したことだ。先のヤンキン氏は「今回のケースはID理論支持者に対する長く続く、全米で起きている不当な差別の一つだ。連邦議会は、NASAを通して予算配分を受けている研究所などが、科学者や職員の意見を踏みにじることがないようにする必要がある」と述べている。

(編集委員・原田 正)