ID支持の技術者を差別 NASAの研究所
進化論vsID理論 20年戦争 (1)
ダーウィン進化論をはじめとする唯物論科学の代替理論として注目されているインテリジェント・デザイン(ID)理論。米国で同理論による科学革命運動(ID運動)がスタートして今年夏で20年の節目を迎える。進化論側との闘いは依然熾烈だが、ID運動は着実に成果を上げてきている。
(編集委員・原田 正)
日本ではダーウィン進化論は「事実」であると一方的に教えられているが、それは米国など世界で起きている趨勢を反映していない。
「20年戦争」を通したID運動の躍進によって、若い科学者を含む多くの人々が同進化論に疑いを持ち、IDに関心を持つようになってきているのである。
まず両理論の違いを概観しよう。チャールズ・ダーウィンが主張したのは次のような自然選択あるいは生存闘争という考え方だ。
ある親から産まれた多くの子にもそれぞれ微小な違いがあるが、環境に適応するのにより有利な個体が生き残る。これが世代交代で繰り返されて微小な違いが次第に大きな違いになっていく――。
ただ、現代ダーウィン進化論では、世代交代する中で偶然に起きたDNAの突然変異に自然選択が働きかけるプロセスが繰り返されて生物は進化してきたと説明する。要するに、生物進化の原因は「偶然のプロセス」だということである。
これに対して、ID理論は次のように主張する。
生物の細胞には文章や機械のような特徴があり、これらは「偶然のプロセス」ではなく、知性によってデザインされ、知性に「導かれたプロセス(guided pro‐cess)」でできたと説明するのがベストだ――。
種内の小さな変異はダーウィンの理論で説明できるが、新たな特徴、機能や構造を出現させる大きな変化はID理論のほうがよく説明できるというのである。
後述するが、論争は宇宙の起源・歴史の分野にも拡大している。単に科学の仮説をめぐる論争なら、これほど大きな騒ぎにならないだろうが、この対立が熾烈さを増している理由は、人間観・宇宙観を真っ二つに分けるからだ。
ダーウィン進化論が正しければ、人間の心も道徳も「偶然のプロセス」で進化してきたのであって、生きることに意味など存在しない。これに対して、ID理論が指し示すように、少なくとも物質レベルを超えた知性によって人間も目的をもって創られたのなら、人間の存在、生き方には深い意味があるはずである。
では、20年戦争を具体的に見ていこう。最近までその舞台の一つとなったのが、実は米航空宇宙局(NASA)のジェット推進研究所(JPL=カリフォルニア州)だ。ID理論を支持するベテラン・コンピューター技術者が同理論をめぐって不当な差別を受け降格されたことを不服として2010年4月、カリフォルニア州最高裁判所に提訴したのである。
訴えたのは、デイヴィッド・カペッジ氏。1997年以来、土星とその衛星を探査するカッシーニ計画に関わり、2000年からはチーム主任システムアドミニストレーターを務めるなど、優秀な技術者として評価されていた。“事件”が起きる前までは、である。