ブラジルの真価問われる南米初・リオ五輪
会場準備や治安に不安材料
来年8月、ブラジルのリオデジャネイロにおいて、南米大陸初の夏季五輪が開催される。リオデジャネイロでは、カーニバルの熱気と共にオリンピック開催に向けた雰囲気が高まっているが、会場準備、治安問題など、夏の祭典に向けた不安材料も決して少なくない。(サンパウロ・綾村 悟)
ホスピタリティーに期待
2016年夏季五輪の開催地が決定したのは、2009年10月2日、東京、シカゴ、マドリードを退けて、リオデジャネイロが開催地を勝ち取った。
夏季オリンピックの誘致は、現政権と同じ労働党(PT)の前ルラ政権時代に始まったものだ。「サッカーの王様」ペレを擁した「オールブラジル」の代表団は、抽選会場(デンマーク・コペンハーゲン)において南米初の五輪開催が決定した瞬間、全員が歓喜に包まれた。
当時のブラジルは、W杯招致をすでに成功させていただけでなく、BRICS(新興経済国)の一角として目覚ましい経済発展を遂げ、かつ途上国の代表としての発言力も示すことで世界の注目を集めていた。
夏季五輪開催地に選ばれた当時のブラジルでは、経済発展の中で貧困層が減少、中間所得層が大幅に増える中で消費ブームが起きていた。
しかし、その後、世界的な景気低迷の直撃を受けたブラジル経済が停滞。財政不均衡に苦しむ中、当初予想をはるかに超える膨大な額の税金がW杯のスタジアムやインフラ整備に注がれていることが分かった。
一方、公共運賃の引き上げだけでなく、教育や医療に対する投資や補償が十分に行われていない環境に対して、「W杯開催資金を教育や医療に」とブラジル世論が反発、2013年のコンフェデ杯(ブラジル開催)を前後して、ブラジル国中を巻き込む100万人規模の反政府デモに発展した。現在、大規模な反政府デモは行われていないものの、サンパウロやリオデジャネイロなどの主要都市では、現在も散発的な反政府デモは続いている。
現在のブラジルは、ブラジル最大の石油掘削・エネルギー企業「ペトロブラス」の贈収賄に絡んだ与党をも巻き込む政治スキャンダルや深刻な財政危機に見舞われており、主要都市での治安状況や相次ぐ増税も含めて国内的に明るい材料は決して多くない。
そうした中で、2016年リオデジャネイロ五輪の大会組織委員会は、先月16日、テスト大会を今年7月から来年の2月にかけて行うことを決定した。聖火リレーも来年5月から始まることが発表されており、これから次第にオリンピックムードが高まっていくものと期待されている。
ただし、競技場の建設遅延は深刻と言われており、国際オリンピック連盟(IOC)副会長のコーツ氏は、昨年4月に「これまでの五輪で最悪」とまで酷評している。
こうした批判に対し、リオデジャネイロ市長のパエス氏は、「準備は予定通り」「一部に工期の遅れはあるが、期限には間に合わせる」と説明、五輪の総予算も、当初予定の280億レアルを超過するが、約380億レアル(約1兆7千億円)にとどまると言明した。しかし、W杯予算での経緯もあり、総予算が膨れ上がる可能性は排除できない。
さらには、リオデジャネイロ市内の治安問題も深刻だ。同市では、人口比での重犯罪率が世界的にみても高く、犯罪組織の撲滅や凶悪犯罪数の抑えこみは、決して成功しているとは言いがたい。
最近では、ファベーラと呼ばれる貧困層が住む地域で、犯罪者や警官隊との銃撃戦に巻き込まれる市民の被害などが報告されている。オリンピック本番では、連邦警察をも投入したテロ対策も含む万全の警備体制が敷かれる予定だが、観光客に被害が及んだ場合、リオデジャネイロが持つ世界有数の観光都市としてのイメージにもさらなる傷がつきかねない。
多くの不安要素を抱える2016年の夏季五輪だが、開会してみれば、十分に素晴らしい大会だったと評価される可能性は決して低くない。
ブラジルW杯は、準備不足や反政府デモ、治安問題などの多くの不安要素を抱えながらも成功した大会として記憶された。試合内容が充実していたこともその理由に挙げられるが、特に実際にブラジル各地で競技を観戦した世界各国のサポーターや観光客から称賛されたのが、ブラジルのホスピタリティーとブラジルの自然など観光資源の豊富さだった。
リオ五輪は、「おもてなし」の精神を持って、東京五輪を契機に観光立国に脱皮しようとしている日本にとっても、存分に楽しみながら、2020年の五輪開催成功に向けて学ぶことができる大会となるかもしれない。







