ベネズエラ、原油安で窮地に
色あせる「21世紀型社会主義」
故チャベス大統領の下で21世紀型の社会主義実現を目指していたベネズエラが、世界的な原油安の流れの中で危機的ともいえる状態に陥っている。(サンパウロ・綾村 悟)
インフレや物資不足が拡大
ベネズエラの故チャベス大統領は、中南米において、キューバの元カストロ国家評議会議長と並ぶ反米主義の首脳として知られていた。チャベス氏は、1999年の初就任後、世界有数の産油国(埋蔵量では世界1位)という立場を利用して貧困層に向けた重点的な社会政策を行い、「チャビスタ」と呼ばれる熱烈な支持層を中心に圧倒的な国内支持率を得てきた。
チャベス政権下のベネズエラは、対外的にも、産油国としての強みを生かし、米国からの経済制裁を受けていたキューバに日量10万バレルにも及ぶ原油を供給、また、中米ニカラグアなど他の中米諸国に対しても原油を安価に供給し、カリブ海と中米において原油外交を行っていた。
キューバからは、原油代金の代わりとして数千人規模のキューバ医師団を受け入れ、ベネズエラの貧困層に医療を供給していた。
さらに、ロシアからの兵器購入や中国からの投資受け入れ、中国への原油輸出などを通じて、ロシアや中国と外交関係を拡大してきた。特に中国への原油輸出は米国向け輸出が減少するのと対照的に年々増加しており、ベネズエラは中国から数十億㌦規模の融資を受けている。ベネズエラの貧困層向けアパートなどで中国企業の家電がいたるところに見られるのも、こうした経済関係強化の表れだ。
また、チャベス大統領が政権に就いた後、南米ではボリビア、エクアドルやブラジル、アルゼンチンなど次々と左派政権が生まれ、米国の裏庭と言われてきた南米に新たな政治潮流を生み出したほどだった。
一方、ベネズエラでは、企業の国営化や土地の国有化、海外企業への厳しい制限等が導入される中で、経済成長率や財政状態、国内治安は悪化の一途をたどってきた。
特に、2013年3月にチャベス大統領が死去した後は、インフレや物資不足が続き、野党勢力の攻勢や根強い反政府デモがあいまって政権は揺さぶられマドゥロ大統領の支持率は下がっていた。
そこに追い打ちをかけるようにして発生したのが、昨年後半の原油価格急落だ。昨年前半には1バレル当たり100㌦以上で推移していた原油価格が、6カ月間で急落、直近では50㌦台に落ち込んでいる。
ベネズエラの財政は、対外輸出の95%、国家収入の半分以上を原油輸出に頼っている。社会保障に多額の資金を注ぎ込んでいる同国財政を黒字に保つためには、原油価格が120㌦以上である必要があるとされている。
ワシントンのシンクタンク、「インター・アメリカン・ダイアログ」のマイケル・シフター所長は、「このままの原油価格が続けば、ベネズエラは持ちこたえられない」(ワシントン・タイムズ紙)と断言している。
こうした中、米格付け会社のフィッチは、12月19日にベネズエラの格付けを、「B」から2段階下の債務不履行の可能性がある「トリプルC」にまで格下げした。欧米の複数の金融機関も債務不履行の可能性を指摘、場合によっては来年前半に起こり得ると指摘している。
ベネズエラのマドゥロ大統領はこうした可能性を一蹴、「ベネズエラがこれまでに債務の支払い等を欠かしたことはない」と説明している。
ただし、ベネズエラの外貨準備高は過去10年にないレベルの低水準まで下がっている他、ベネズエラの通貨「ボリバル」の対ドルレートも下落し続けている。
さらに、国内の不満も頂点に。インフレ率は最大で64%にも達しようとしている他、物資不足は、日用品から家電製品や自動車にいたるまで多岐にわたっており、スーパーの前には、食料や生活必需品を得るための長蛇の列ができている。
国内の不満をそらせるように、マドゥロ大統領は、原油安の原因を諸外国の政策にあると批判、国内の物資不足や反政府デモなどに関しては、富裕層や反大統領派、野党が混乱を招いていると非難している。
こうした最中、故チャベス大統領時代には盟友関係にあったキューバが12月17日、歴史的な米政府との国交正常化交渉に応じることを表明、キューバ・ベネズエラを軸としてきた中南米の反米同盟に亀裂が生じている。今年4月の米州サミットでは、カストロ国家評議会議長とオバマ米大統領の初会談が行われるとも予想されており、米州からの米国の疎外とキューバの米州機構復帰を訴え続けてきたベネズエラとしては、複雑な立場だ。
経済・社会状況が深刻な状況を迎える中、原油価格の低迷が続けば、マドゥロ政権はどこかで財政支出の切り詰め、社会保障費の削減にまで踏み込まざるを得ない。
そうなった場合、その類まれなるカリスマ性で一時代を築いたチャベス氏の後継者としての現マドゥロ政権に対する国内支持がどこまで持続するか疑問だ。
米ワシントン・ポスト紙(電子版)は、ベネズエラ政府は抑圧的な政治を止め、国内の危機に対応するために野党との融和を図るべきだと主張、未曾有の危機を国内融和で乗り切るように求めた。
「21世紀型の社会主義」実現を目指したベネズエラに、歴史的転換期が訪れようとしている。






