リベラルなレガシーづくりに邁進、任期残り2年のオバマ米大統領
野党との協調拒否、独断的行動
11月の米中間選挙で与党・民主党が大敗し、有権者はオバマ大統領の政権運営に厳しい審判を下した。だが、オバマ氏が選挙結果を真摯(しんし)に受け止め、リベラル路線からの軌道修正や野党・共和党との協調を模索する気配はない。むしろ、選挙を気にする必要がなくなった今、残り2年の任期で、これまで以上にリベラル路線を推進し、レガシー(遺産)づくりを強行する覚悟を固めているようだ。(ワシントン・早川俊行)
民主党が惨敗を喫した中間選挙から一夜明けた11月5日。ホワイトハウスで記者会見したオバマ氏の表情は、実にすっきりしていた。
2010年中間選挙で敗北した際は、やつれた表情で「完敗」と認めたが、今回は選挙結果を悔しがる雰囲気はなかった。どこか達観したようにも見えたこの時の表情が、残り2年となった大統領任期に対するオバマ氏の「決意」を象徴していたのかもしれない。
その決意とは、議会共和党への妥協を拒否し、リベラルなレガシーづくりに邁進(まいしん)することだ。
中間選挙から2週間余りしか経過していない先月20日、オバマ氏は共和党の強い反対を無視し、大統領権限を行使して移民制度改革を一方的に前進させる意向を表明した。500万人前後の不法移民に3年間の滞在資格を与え、一時的に強制送還の対象から外すのが柱だ。
激しい党派対立により、議会の判断を待っていては移民制度改革が遅々として進まないのは確かだが、国論を二分する敏感な問題であることも事実だ。世論調査では、過半数が議会の判断を待たずに大統領権限で改革を進めることに反対していた。
オバマ政権寄りのワシントン・ポスト紙さえも、「単独行動主義はうまくいかない」と主張。職権乱用、憲法違反の批判を浴びながらも、オバマ氏は自らの権限で改革を強行する構えだ。
また、オバマ政権の環境保護局(EPA)は先月26日、大気汚染物質オゾンの排出を抑制する規制強化案を発表した。発電所や工場、自動車などからの排出基準を厳格化する内容で、実施されれば、産業界は多額の投資を強いられる。2040年までに最大3・4兆㌦の経済生産と290万人の雇用が失われるとの試算もあり、産業界は「史上最も金のかかる規制」と悲鳴を上げるが、オバマ政権は「アンチビジネス」姿勢を一段と強めている。
大統領として最後の選挙となる中間選挙が終わり、オバマ氏は2017年1月の退任まで選挙を気にする必要がなくなった。選挙の束縛(そくばく)から解放されたオバマ氏は、これまで先送りしていたリベラルな政策課題を一気に放出している、そんな印象さえ受ける。
ワシントン・タイムズ(WT)紙のコラムニスト、ジョゼフ・カール氏によると、ある議会関係者は同氏にこう漏らしたという。
「束縛を受けないオバマ氏が危険なのは分かっていたが、ここまで危険だとは思わなかった。彼は今、米国民が何を望んでいるかなど全く気にしていない。最もリベラルな政策課題を次々に強引に推し進めることがすべてだ。彼はそれを始めたところだ」
オバマ氏がレガシーづくりのために、特に力を入れているのが環境問題だ。
オバマ氏は先月、北京で習近平中国国家主席と首脳会談を行い、温室効果ガスの削減目標で合意した。米国が「2025年までに05年比26~28%削減」し、中国は「30年ごろまでに総排出量をピークにする」との内容だ。オバマ氏は習氏との共同記者会見で「歴史的合意」と自画自賛した。
だが、共和党のミッチ・マコネル上院院内総務は「排出規制により米国は大損害を被る一方で、中国は16年間、何もしなくてもいい」と、不公平な内容に反発。保守系シンクタンク、ヘリテージ財団のスティーブン・ムーア・チーフエコノミストは、合意を「米国による一方的な経済的武装解除」と断じ、「中国の指導者たちが我々をあざ笑う声が太平洋を越えて聞こえてきそうだ」と、痛烈に批判した。
オバマ氏はまた、カナダと米メキシコ湾岸をつなぐ原油パイプライン「キーストーンXL」に対し、議会が建設を承認する法案を可決しても、拒否権を行使する方向に傾いているとされる。共和党は経済効果が大きいとして建設承認を強く求めているが、オバマ氏は環境保護を優先する意向を固めつつあるようだ。
保守派コラムニストのドナルド・ランブロ氏は、中間選挙の出口調査で最重要課題は経済と答えた有権者が最も多かったことを挙げ、「米国民は大統領と民主党に対し、雇用と経済に集中しろという明白なメッセージを送った」と指摘。だが、「オバマ氏は頑(かたく)なに国民の不満を無視し、党内のリベラル勢力に受けがいい極左政策を打ち出している」と批判した。
WT紙のカール氏は、リベラルな政策を強引に推し進める中間選挙後のオバマ氏について「これが本当のバラク・オバマだ」と警戒。「彼がいなくなる2017年に米国がまだ存在していることを祈ろう」と、オバマ氏退任までの2年間は米国にとって極めて困難な期間になると予想した。