激しい「内戦」が続く民主党
基盤の中産階級が離反
選挙敗北の原因はオバマケア
【ワシントン】古い習慣はすぐに変えられるものではない。マスコミは、激しい共和党内戦について、怪しい報道を続けることばかりに夢中になり、対岸で本当の内戦が起きていることに気付かなかった。
共和党内に激しい戦いがあるのは確かだ。しかし、それは、政府を閉鎖すれば、オバマ大統領に代表的政策であるオバマケアを撤回させられるかどうか、さらに今回は大統領令による不法移民への滞在資格付与にはどう対応するかをめぐるよくある小競り合いにすぎない。
これは、来年、急場しのぎの対策で乗り越えられるだろう。だが、国土安全保障の問題に関しては少し遅れそうだ。喫緊の課題、すなわち移民問題で大統領令の執行への予算を止める動きが出てくる可能性がある。これを実行するとすれば、共和党が上下両院を支配し、優位に立つ今だろう。
これは内輪もめであり、影響は限定的だ。だがその一方で、民主党では大荒れの事態が続いている。方向を見失い、呆然(ぼうぜん)とした民主党が、6年間のオバマ政権の大混乱から脱出しようともがき始めたのだ。
選挙の前から派手な動きが始まっていた。民主党全国委員会のシュルツ委員長は、民主党議員らから不意打ちを食らった。それに続いて、選挙での大敗北直後に、リード民主党上院院内総務の参謀が表立って、敗北はオバマ氏のせいだと批判し、オバマ、リード両氏の間で対立が深まった。それに対する報復としてオバマ氏は先週、リード氏が苦労して交渉を進めてきた4500億㌦の「減税延長」案を破棄した。
民主党の内戦は、そんなけちな個人攻撃にとどまってはいない。それは民主党の基本的な戦略でありイデオロギーにも関わってくる。口火を切ったのは、シューマー上院議員のナショナル・プレス・クラブでの演説だった。選挙後3週間のことだった。オバマ主義、オバマ氏の政策、優先順位をおおっぴらに批判し、反オバマを宣言した。その主要な内容はこうだ。景気を回復させ、苦しむ中産階級の心配を解消することを期待されて選出されたにもかかわらず、中産階級にとって比較的うまく機能していた医療保険制度を批判し、壊し、再構築し、不安定化させた。
シューマー氏によると、米国人の85%が医療保険に加入していた。しかし、有権者の約13%に当たる、保険に加入していない少数派有権者のために、無数の人々が混乱を味わった。
これによって、伝統的な民主党の票田である中産階級が疎外された。実際に、ニューヨーク・タイムズ紙のトーマス・エッゾール氏が引用した2013年の世論調査では、25ポイント差で、オバマケアによって貧困層の生活が改善されたと感じていた。しかし、「あなたのような人々にとって」よくなったかという質問に対しては、16ポイント差で悪くなったが上回った。さらに、今年の選挙で民主党から大量に離れていった白人では、63%がオバマケアによって中産階級の生活は悪化したと答えている。
選挙で負けたのはそのせいだとシューマー氏は主張した。旧来の民主党支持層が大量に離反した。医療保険は2009年には、大きな問題を抱えていなかった。1993年にヒラリーケアが民主党の大敗北にはつながらなかったのと同様だ。オバマケアは、オバマ氏と議会リベラルエリートの思想的義務感の結果であり、旧来の福祉国家実現を目指すものだ。
オバマ氏の今の関心事は、気候変動と不法移民への滞在資格付与だ。オバマ氏の景気回復策の中で、大恐慌時のような収入激減を経験した労働者・中産階級にとってはあまり関心はない。
シューマー氏が抱えている重大な課題は、リベラルエリートと一部の少数派に奉仕したことが、いかにして白人労働者階級の64%の支持の喪失につながったかという点だ。白人労働者階級の票は、縮小してはいるものの、黒人とヒスパニックを合わせたよりもほぼ50%も多い。
シューマー氏が、オバマ氏の学者然としたリベラリズムに向かって爆弾を放り投げている一方で、左派らは、エリザベス・ウォーレン氏の進歩的ポピュリズムを武器に、党内の中道派への攻撃を続けている。ウォーレン氏は、オバマ氏の次はヒラリー・クリントン氏だと考えている。クリントン氏も、ウォーレン氏も、民主党の支持基盤が嫌うウォール街とは折り合いがいい。クリントン氏は実際にそう言っていた。オバマ氏は「こんなことを言わせていてはいけない。当たり前だが、雇用を創出するのは企業と事業だ」と言ったが、これはクリントン氏をまねることでウォーレン氏の批判をかわそうという浅はかな考えだ。
シューマー、ウォーレン両氏は、民主党の領域の対岸から、オバマ後の民主党を再建しようとしている。共和党は大統領の無法ぶりを阻止しようと思案している。これは、議会の権限では難しいことであり、とりわけ一院しか支配していないならもっと難しい。その一方で、民主党は、どのような考えを持ち、誰の支持を得るべきかを模索している。
どちらの方が深刻な問題かは明らかだ。
(12月5日付)