ブラジル、露との軍事協力推進
防空システムやステルス機開発
欧米を中心に兵器を導入してきたブラジルの安全保障体制に大きな変化が起きている。ブラジルはロシアとの軍事協力を進めており、ロシアからステルス戦闘機の共同開発を打診されている。米国家安全保障局(NSA)による通信傍受疑惑は、米一極への依存を減らし新興国同士のつながりを強くさせる方向に働こうとしている。
(サンパウロ・綾村 悟)
NSA通信傍受疑惑が影響か
ブラジルのアモリン国防相は16日、同国の首都ブラジリアでロシアのショイグ国防相らと会合を行い、ロシアから対空ミサイルなどを約10億ドル(約980億円)で購入すると発表した。
現地メディアによると、購入対象となっているのは、最新式の近距離対空防御システム「パーンツィリーS1」と携行ミサイルシステム。正式契約は来年中頃になり、契約にはブラジルに対する技術供与なども含まれている。ミサイルの配備は、リオデジャネイロで開催される夏季オリンピック(2016年)に間に合わせるという。
ブラジルは従来、米国をはじめとする西側陣営から兵器を購入してきたが、昨年12月にロシアから攻撃型ヘリコプターを初めて購入、ロシアとの軍事協力関係を築き始めていた。今回のミサイルシステム購入は、ロシアのメドベージェフ首相が今年2月、ブラジル訪問時に直接働き掛けたものだ。
さらに、ロシアは、同国がインドとの間で共同開発を進めている第5世代(ステルス)戦闘機(T50/PAKFA)の開発にブラジルが参加することを提案した。ブラジル政府は、前向きに検討していると伝えられている。
ブラジルでは現在、老巧化している主力戦闘機(FX)の入れ替えが急務とされており、来年10月のブラジル大統領選挙後にも、総額50億ドル(約4600億円)に及ぶ次期主力戦闘機36機分の選定作業が行われる予定だ。
ブラジルの次期主力戦闘機事業に関しては、仏の「ラファール」とスウェーデンの「グリペン」、米の「F/A18スーパーホーネット」が入札の対象機種となっている。当初は仏のラファール戦闘機が有利となっていたが、米ボーイング社が現地生産や技術供与などを含む有利な条件を提示、最近では「F/A18」が有利に立っていたとされる。
ところが、ブラジルのグロボ紙が今年7月、米中央情報局(CIA)元職員スノーデン容疑者が暴露した、NSAによる通信傍受の実態を暴露、その中でNSAによるブラジルや中南米に対する通信傍受の内容が詳細に明らかにされた。
ブラジルメディアは、NSAによるブラジル国内での通信傍受は、ルセフ大統領の私的通信やブラジル最大の石油公社ペトロブラスまでもが傍受対象になっていたと報道、その内容にルセフ大統領が激怒したと伝えられた。
その後、ルセフ政権は、米政府に対してNSAの通信傍受に関する謝罪や説明を求めた上で、対応によっては通商関係の見直しや次期主力戦闘機の購入中止を含む制裁措置をも辞さないと発表した。
それだけでなく、事態を重く受け止めたルセフ大統領は、米政府から国賓として招待されていた今月23日からの米国公式訪問も延期を発表、強い批判の姿勢を示した。
加えて、ルセフ大統領は先月24日、国連総会の演説においてまで、NSAによる通信傍受問題を取り上げて強く批判した。
NSAの通信傍受問題を受け、ブラジルとロシア政府は、武器開発や調達の協力にとどまらず、サイバー攻撃に対する防御を含む情報保全や宇宙分野で、独自の協力関係を構築することを視野に入れている。その背景には、公式の言及はないが、NSAによるブラジル国内での通信傍受問題が、ブラジルの安全保障戦略に影響を与えている可能性は否定できない。
ロシアにとっては、南米最大の経済国家でもあるブラジルの軍事産業に入り込む千載一遇のチャンスだ。
ブラジルの次期主力戦闘機入札をめぐっては、今回、ロシア側がステルス戦闘機の開発協力とセットで次期主力戦闘機の売り込みを図ったと伝える報道もある。しかし、アモリム国防相は「入札企業はすでに絞りこまれており、変更はない」と言明した。
ただし、アモリム外相は「次世代主力戦闘機の共同開発に関しては前向きに取り組みたい」「ロシアとは、軍事技術開発を含む戦略的パートナーとしての関係を築きたい」と、今後もロシアとの軍事協力を進めることを明らかにしている。