格差是正の有効策は「家庭再建」、米研究機関が報告書

 米国では拡大する経済格差が深刻な問題となっているが、有効な対策を見いだせずにいる。そうした中、米大手研究機関が最近、一番の格差是正策は「家庭再建」であるとする報告書を発表した。安定した家庭を築くことで、収入は大幅に増え、子供も豊かな人生を送れることをデータで示しており、家庭が社会の礎であることを経済的側面から裏付ける内容だ。
(ワシントン・早川俊行)

経済的利益が大きい結婚

子供にも好循環もたらす

500 報告書は、大手シンクタンク、アメリカン・エンタープライズ政策研究所(AEI)が家庭学研究所(IFS)と共同で行ったプロジェクトで、ロバート・ラーマン・アメリカン大学教授とブラッドフォード・ウィルコックス・バージニア大学准教授が執筆した。

 報告書によると、1979年から2012年にかけて、子供がいる世帯の年収の中央値は14%しか伸びていない。その背景にあるのがシングルマザーの増加など家族構造の変化で、子供がいる世帯のうち親が結婚している割合は1980年の78%から2012年は66%に低下した。

 親が結婚している世帯は年収の中央値が30%増加したのに対し、シングルマザーなど結婚していない世帯は16%の伸びにとどまった。報告書は、結婚世帯の割合が1980年の水準を維持していたら、子供がいる世帯の年収の中央値は44%増加していたとし、「結婚離れ」が70年代後半以降の所得低迷をもたらした一因であると指摘した。

 その上で、報告書は、結婚して安定した家庭を築いた世帯は、そうでない世帯に比べ、経済的にどのくらい有利なのか、具体的に説明している。

 結婚している男性は結婚していない男性に比べ、年間労働時間が28~30歳で441時間、44~46歳で403時間も長い。個人年収は28~30歳で1万5929㌦(約180万円)、44~46歳で1万8824㌦、世帯年収は28~30歳で2万1993㌦、44~46歳で4万4350㌦も多い。

 結婚すれば、男性には家族を養う責任感が生まれる。勤勉に働くことで労働時間が増え、これに伴い収入も増えて家計も安定する。結婚はこうした好循環を促すわけだ。

 一方、結婚している女性は結婚していない女性よりも、年間労働時間は28~30歳で196時間、44~46歳で131時間少ない。これは家事・育児のために働く時間が減るためだ。だが、個人年収を比べると、28~30歳で1349㌦、44~46歳で1465㌦少ないだけで、結婚は女性の収入に大きなデメリットをもたらさないことが分かる。

 世帯全体で見れば、結婚はメリットのほうが圧倒的に大きい。結婚している女性は結婚していない女性よりも、世帯年収が28~30歳で3万3822㌦、44~46歳で5万2659㌦も多いのだ。

 こうした結婚の経済的メリットは、貧困率の高い低学歴、黒人・中南米系の世帯でも認められ、家庭再建が格差是正、貧困対策に極めて有効であることが分かる。

 さらに、安定した家庭が生み出す利益は、次世代にも引き継がれる。両親がいる家庭で育った子供は、シングルマザーなど一人親家庭に育った子供に比べ、高校を卒業する確率が男性で15%、女性で9%、結婚する確率が男性で10%、女性で12%それぞれ高い。子供と同居しない父親になる確率は5%、シングルマザーになる確率は12%それぞれ低い。

 経済的にも、両親がいる家庭で育った子供はそうでない子供に比べ、28~30歳の個人年収が男性で6534㌦、女性で4735㌦、世帯年収が男性で1万6173㌦、女性で約1万2198㌦も多い。

 親が安定した家庭を築けば、子供も学歴、結婚・家庭生活、収入の面で豊かな人生を送れる確率が高まる。つまり、好循環は世代を越えて受け継がれるわけだ。逆に、家庭が不安定だと、子供も不安定な人生を送る可能性が高まる。

 報告書は家庭を強化するため、結婚離れを助長する制度を改めるべきだと主張。結婚して世帯所得が増えると、それまで受け取っていた福祉手当が削減、または打ち切られてしまうため、低所得層を中心に結婚しない人が多くいるからだ。

 経済的側面から見た結婚・家庭の重要性はまだあまり注目されていないのが実情。それでも、ポール・ライアン下院予算委員長やマルコ・ルビオ上院議員ら一部の共和党有力者が、格差是正・貧困対策に家庭重視の視点を取り入れるなど、今後、議論が深まる可能性がある。

 ただ、報告書は「文化が結婚を支援する方向にシフトしない限り、結婚や家庭生活を強化・安定させることはできない」と指摘。市民団体や企業、学校、宗教団体、文化人らを巻き込み、結婚・家庭再建を促す全国キャンペーンを展開すべきだと提言している。