女性2候補の支持率拮抗 、ブラジル大統領選が終盤戦へ
【サンパウロ綾村悟】10月5日に大統領選挙を控えるブラジルで、最新の世論調査結果が発表され、与党・労働党の現職ジルマ・ルセフ大統領と、野党・ブラジル社会党から出馬しているマリナ・シルバ元環境相の女性2候補が支持率で拮抗(きっこう)していることが明らかになった。
世論調査会社のイボペ社とポプリ社が、今月15日から16日にかけて発表した世論調査結果では、1次選挙では現職のルセフ大統領が、両社の調査結果で支持率36%と首位を堅持しているものの(2位のシルバ元環境相は、それぞれ27%と30%)、上位2候補による決選投票のシナリオでは、僅差でシルバ元環境相に続く結果となっている。
10月26日に実施される決選投票のシミュレーションでは、イボペ社の調査結果は、シルバ候補への支持率43%に対して、ルセフ候補は40%、ポプリ社ではシルバ候補の支持率42%に対してルセフ候補は41%となっており、どちらの調査結果も誤差の範囲に近い接戦だ。
シルバ元環境相は、8月初めに飛行機事故死したカンポス元大統領候補(ブラジル社会党前党首)の代役として急遽(きゅうきょ)出馬した。シルバ候補への支持は、弔い選挙としての側面や新政権誕生への期待なども高まって急上昇し、一時はルセフ大統領に決選投票で大きく差をつけるところまで支持が高まった。
政策面では、貧困対策など社会保障政策を重視するルラ前政権からの流れを受ける左派系のルセフ大統領に対し、シルバ元環境相は、中央銀行の独立性強化や財政緊縮を公約に掲げ、経済界からの支持を得つつある。
一方、敬虔(けいけん)なエバンジェリコ派(保守プロテスタント)の信者でもあるシルバ候補は、同性愛者に対する権利拡大に慎重な姿勢を示しており、ブラジルの同性愛者団体から大統領選での不支持を表明されている。
ブラジルでは、例年、世界最大とも言われる数百万人規模が集う同性愛者によるパレードが開催されており(サンパウロ市)、近年は同性愛者の権利拡大も進んでいる。また、過去には、サンパウロ市において、労働党系の市長時代に、同性愛を家族の一形態だと教える教育の義務化を導入しようとした経緯があり、シルバ候補の方向性には、保守派キリスト教団体が賛同している。
一方、ルセフ大統領の陣営は、議会内の党勢によって放映時間が決められる政権放送を利用して(ルセフ候補の政権放送時間はシルバ候補の5倍以上)、反シルバ・キャンペーンを行っており、シルバ候補が社会保障政策を縮小させる可能性があることや政治家としての経験不足などを理由に挙げながら、シルバ候補に対する支持を抑えることに成功している。
ただ、これまでに3度にわたって実施された大統領選候補者(総数8人)らによる公開討論では、シルバ候補は「力強さに欠ける」と言われながらも、現職に劣らぬ安定感や政策などの主張で高い評価を受けており、シルバ候補が少数政党に属しながらも一定の支持率を保っていることの背景となっている。
シルバ元環境相は、熱心な環境保護活動家でもあり、2010年にブラジル緑の党(PV)から出馬した大統領選挙では、環境問題などに傾いた発言などが課題とされたが、今回の大統領選では、現地メディアも驚くほどの柔軟性と安定感を見せている。
今後、ブラジルの大統領選は終盤戦に入る。前ルラ政権から圧倒的な支持率を保ってきた与党・労働党政権が、政権放送や動員力では圧倒的に有利だが、シルバ候補の支持率も大きく崩れておらず、焦点は早くも上位2候補による決選投票に向かいつつある。