オバマ米政権、「イスラム国」打倒の戦略不在

空爆継続も効果は限定的

 オバマ米政権はイラクでイスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」への空爆を継続しているが、あくまで対症療法的な措置であり、イスラム国の勢力を大きく削(そ)ぐものではない。国際テロ組織アルカイダ以上の脅威ともいわれるイスラム国をどう打倒するのか、包括的な戦略は不在のままだ。(ワシントン・早川俊行)

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18日、ホワイトハウスで記者会見するオバマ米大統領(UPI)

 オバマ大統領は18日の会見で、クルド人治安部隊などが北部モスル郊外のダムを奪還したことを「大きな前進だ」と述べ、空爆の成果を誇示。今後も空爆を続ける方針を示す一方で、地上部隊の派遣を改めて否定し、あくまで限定的な軍事介入にとどめる意向を強調した。

 だが、限定的な空爆はその効果も限定的だ。統合参謀本部のウィリアム・メイビル作戦部長は「空爆がイスラム国の全般的な戦闘能力や活動に影響を与える可能性は低い」と、空爆作戦の限界を認めている。

 また、イスラム国の兵士たちは既に、空爆を避けるために分散したり、住民の中に隠れ始めており、上空から標的を探知・攻撃するのが困難になりつつある。ロバート・スケールズ退役陸軍少将は、ワシントン・ポスト紙への寄稿で「ピンポイント空爆の効果はわずか数週間で消える」と断言した。

 イスラム国と戦うのはあくまでイラク人であり、米国は後方支援に徹するというのがオバマ政権の基本姿勢だ。だが、米有力シンクタンク、外交評議会のリチャード・ハース会長は「イラク政府・軍が独力でイスラム国を止められると考えるのは幻想だ」と主張。空爆の目的を人道支援と米国民保護に限定したことについて「いかなる戦略的合理性も長期的計画も存在しない」と、イスラム国に対する包括的戦略の不在を批判した。

 イラク、シリアにおけるイスラム国の伸長を放置すれば、いずれ米国の同盟国ヨルダンなど周辺国に勢力を広げようとするのは確実。世界にエネルギーを供給する中東地域が大混乱に陥ることは「戦略的悪夢」(ハース氏)だ。また、イスラム国の外国人兵士たちが欧米諸国を直接脅かすのは「時間の問題」(同)でもある。

 このため、オバマ政権の対応は不十分との意見が相次いでいる。エリオット・エンゲル下院外交委員会筆頭委員(民主党)は「(イスラム国の)撃退のためにできることは全てやる必要がある。最悪の選択は何もしないことだ」と述べ、地上部隊派遣も選択肢の一つとの考えを示した。

 また、ダン・バートン元下院議員(共和党)は、オバマ政権がイスラム国の打倒ではなく「封じ込め」を模索していることを批判。イスラム国を封じ込めるのは不可能だとして「目標はイスラム国の壊滅でなければならない」と主張した。

 一方で、オバマ政権のイラク政策は、イスラム国の自壊を前提にしているとの見方もある。実際、イスラム国の指導者アブバクル・バグダディ容疑者による「カリフ(預言者ムハンマドの後継者)」宣言は、サウジアラビアやイラン、トルコなど周辺国を敵に回したほか、あまりの残虐性に民衆が離れることも考えられ、イスラム国は長続きしないとの指摘は少なくない。

 だが、ワシントン・ポスト紙のコラムニスト、デービッド・イグナチウス氏は「米情報機関高官の見方は異なる」と指摘。同高官は、イスラム国が兵士の数を2010年の1500人から1万人以上に急拡大させたことや、さまざまな言語を操るグローバルなジハード(聖戦)組織に発展させたことを挙げ、自壊しないと分析しているという。