評価上がるブッシュ前大統領、独週刊誌が米政界分析

 独週刊誌シュピーゲル最新号(6月16日号)に非常に面白い記事が掲載されている。テーマは米政界の動きだが、在任中、不人気だったジョージ・W・ブッシュ前米大統領(任期2001年1月~09年1月)の名誉回復が進んできたというのだ。独週刊誌が分析する米政界の動きを紹介する。(ウィーン・小川 敏)

オバマ大統領への失望反映

弟ジェブ氏の出馬も現実味

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2013年4月25日、米国テキサス州ダラスの南メソジスト大学構内に建設された、ジョージ・W・ブッシュ大統領図書館の開館式典で父親のブッシュ元大統領(左)と握手するブッシュ前大統領=UPI

 ブッシュ前大統領(67)の任期8年間の実績をどのように評価するかの世論調査が最近行われたが、実績を評価する米国民が47%にもなったという。08年の調査ではその半分にも満たなかったことからみても、米国民の前大統領への評価が著しく改善してきたことが分かる。

 ブッシュ氏のカムバック現象を実証する例として、ブッシュ氏の弟、元フロリダ州知事のジェブ・ブッシュ氏の大統領選出馬が現実的テーマとなってきたことが挙げられている。シュピーゲル誌記者は「数年前まで、ブッシュ氏の弟が次期大統領選(16年)に出馬するといっても、多くの米国民は相手にしなかっただろう。米国民はブッシュ家出身の大統領はもうコリゴリだという雰囲気が支配的だった」という。

 ところがそれが変わってきたのだ。今では共和党からジェブ・ブッシュ氏と民主党のヒラリー・クリントン前国務長官の戦いを予想する声が高まってきているのだ。すなわち、ブッシュ家から3代目の大統領が誕生する可能性について、国民は現実的に受け止めだしてきたわけだ。

 シュピーゲル誌記者は、ブッシュ氏のカムバックについて、同氏の後継であるオバマ大統領のふがいなさと、同氏に対する国民の失望が反映していると分析する。大統領時代、アフガニスタンとイラクに約200万人の米兵士を戦地に送り、国家財政を破産に追い込んだブッシュ氏を酷評してきた米国民がここにきて「ブッシュ氏の時は何のために戦っているかがはっきりしていた」と考え直しているというのだ。

 これに対し、アフガニスタンとイラクから米軍を撤退させ、就任早々「米国は世界の警察官になる考えはない」と宣言し、シリア内戦でオバマ大統領が軍事介入を躊躇(ちゅうちょ)している時、ロシアのプーチン大統領が素早くロシア主導の対シリア路線を発表した。ウクライナ紛争でもプーチン氏の外交政策に翻弄されるなど、昔の「強い米国」を知っている国民は、オバマ政権の外交オンチに歯がゆい思いを抱いている。そこで国民の間から「ブッシュ時代の方が良かった」といったため息が飛び出してきても不思議でないわけだ。

 ブッシュ氏はホワイトハウスを去った後、公の場に出ることをできるだけ避け、もっぱら絵描きに没頭している。世界の政治家の肖像画を描いた個展を4月、ダラスで初めて開いたばかりだ。ブッシュ政権時代に厳しい批判を浴びせてきたヒラリー氏もブッシュ氏について、「タレント性があり、知性的だ」と評価する一方、その気さくな性格をたたえているという。

 退任後、評価を高めた米大統領は多くはいない。最近では現職時代にピーナツ外交と冷笑されたジミー・カーター氏(1977年1月~81年1月)が退任後、人権外交に乗り出して2002年にノーベル平和賞を受賞するなど活躍している程度だ。任期中も退任後も人気のあるクリントン元大統領(1993年1月~2001年1月)は任期中の負債返済(弁護士費用)の資金稼ぎのため世界を講演などで飛び回っているありさまだ。

 「歴代米大統領の中で最悪の大統領」とまで酷評されたブッシュ氏は退任後、オバマ政権を公の場で批判することを避ける一方、テキサスのアトリエで絵を描きながら自身の名誉回復を果たそうとしているのだ。