中国の圧力に屈したブルームバーグ、ニューヨーク・タイムズは「蓄財暴露」を継続

中国報道で分かれる対応

 中国報道をめぐり、米有力紙ニューヨーク・タイムズ(NYT)と金融情報大手ブルームバーグ通信の対応が分かれている。両社は中国指導部の親族による巨額蓄財を報じ、中国当局から圧力を受けていた。NYTは蓄財に関する調査報道を継続しているのに対し、ブルームバーグは商業利益を優先し、自粛している。

(ワシントン・早川俊行)

 「我々は(中国調査報道を)再考すべきだった」

 ブルームバーグのピーター・グローアー会長は3月に香港で行った講演で、中国当局からの圧力を招く調査報道をしたことを後悔する発言をした。

 同社は2012年6月、習近平国家主席(当時副主席)の親族による巨額蓄財を詳細に報道。同社は、契約料が年間2万㌦の金融情報端末が収益の柱だが、報道に激怒した中国政府の圧力により、中国で端末契約が急減していた。

 また、中国に新たに赴任する特派員へのビザ発給拒否も、同社に深刻な萎縮効果を与えた。世界第2位の経済大国に記者を送れないことは、金融・経済情報を扱う通信社にとって致命的だからだ。

 同社は昨年、中国一の富豪、王健林・大連万達集団(ワンダ・グループ)会長と中国指導部親族との癒着を暴露する記事を準備していたが、公表を見送った。中国事業へのさらなる悪影響を避けるための判断とみられている。

 グローアー氏は講演で「我々は中国にいなければならない」と述べ、中国から追放される事態だけは回避したいと強調。同社創業者で、ニューヨーク市長を退任し12年ぶりに社に復帰したマイケル・ブルームバーグ氏も同じ考えであることを明らかにした。商業利益優先は上層部の決定事項のようだ。

 一方、NYTも温家宝首相(当時)一族の巨額蓄財を報じ、厳しい報復措置を受けているが、これに屈しない姿勢を示している。ブルームバーグの中国調査報道記事の執筆者だったマイケル・フォーサイス記者は同社を辞めた後、NYTに加入。フォーサイス氏らは先月、汚職容疑で調査を受けている中国の前最高指導部メンバー、周永康氏一族の蓄財を暴く記事を書いた。

 NYTのマーク・トンプソン最高経営責任者(CEO)は、ブルームバーグの対応について「ジャーナリズムよりも商業利益を優先している」と批判。「我々は調査報道を再考する必要があるとは思っていない」と述べ、今後も調査報道を続ける方針を示した。

 ワシントン・ポスト紙は先月26日付の社説で、NYTの報道姿勢を高く評価。一方で、「ブルームバーグの譲歩は、中国が自国だけでなく欧米のメディアをも脅迫できるのか、という憂慮すべき疑問を提起した」と指摘し、中国当局はブルームバーグへの圧力が成功したことを受け、海外メディアへの情報統制を強める可能性があることに強い懸念を示した。