国防費削減で戦力低下の米軍、2~3年で中国と同等に


イーグレンAEI研究員が分析

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マッケンジー・イーグレンAEI研究員

 【ワシントン早川俊行】米有力シンクタンク、アメリカン・エンタープライズ政策研究所(AEI)の軍事専門家であるマッケンジー・イーグレン研究員はこのほど、世界日報の取材に応じ、オバマ政権下で進む国防費の大規模削減により、「米軍は2~3年以内に、多くの能力で中国軍と同等になる」と、深刻な戦力低下に強い懸念を表明した。
 イーグレン氏は、訓練やドクトリン、リーダーシップ育成、統合作戦などの分野では米軍が引き続き優位を保つと予測。だが、「航空支配やサイバーなどの能力では、既に中国と同等、または中国が追い越すだろう」との見方を示した。

 オバマ政権は4日に発表した「4年ごとの国防計画見直し(QDR)」でアジア太平洋重視を強調した。これについて、イーグレン氏は「QDRはアジアへのリバランス(再均衡)継続を表明しているが、リバランスの中身が米軍の縮小によって変化していることは説明していない。海軍艦艇の60%をアジアに振り向けるといっても、艦艇数自体が減っている」と指摘し、戦力が急速に縮小する中で進めるリバランスの効果に疑問を呈した。

 QDRと2015会計年度(14年10月~15年9月)国防予算は、陸軍を大幅削減する一方で、海空軍の近代化は進めていく方向性を示した。これは海空軍力を重視した対中戦略の一環との見方もあるが、イーグレン氏は「大規模な陸軍を保持する余裕がないだけだ。戦略的に考えられたものでは全くない」と、あくまで予算の都合だけで決められたものだと批判した。

 イーグレン氏は、サミュエル・ロックリア米太平洋軍司令官が昨年、アジア太平洋における最大の長期的安全保障課題として、中国ではなく気候変動を挙げたことを例に、「(国防総省の方針が)中国を睨んだ総合的な戦略に基づくものではないのは明らかだ」と語った。

 中国が増強する接近阻止・領域拒否(A2AD)能力への対抗措置として、米軍が具体化を進める海軍と空軍の統合作戦構想「エアー・シー・バトル(ASB)」については、「現在、焦点となっているのは兵器ではなく、ドクトリンや作戦概念の変更などコストのかからない分野が中心だ」と述べ、国防費削減の影響でASB構想に必要な兵器調達が遅れているとの見方を示した。

 イーグレン氏は、米国が対中優位を維持するには、「急落する軍事力近代化の流れを反転させ、研究開発予算をより高いレベルで確保する必要がある」と強調した。