「貧困との戦争」から50年の米国、自立より政府依存深める

 リンドン・ジョンソン米大統領が一般教書演説で「貧困との戦争」を宣言したのは、今からちょうど半世紀前の1964年1月のことだ。以来、貧困対策に20兆㌦以上が注ぎ込まれたといわれているが、貧困率が大きく改善されたわけではない。保守派からは、貧困層の自立を促すよりもむしろ、政府依存を深めた過去50年の取り組みを「失敗」だったと総括する指摘が出ている。
(ワシントン・早川俊行)

結婚離れ是正がカギに

600 ジョンソン大統領の“宣戦布告”から50年の節目を迎え、米国では再び貧困対策に注目が集まっている。オバマ大統領は28日の一般教書演説で主要テーマの一つとして取り上げる見通し。野党共和党も「庶民に冷たい」とのイメージを払拭(ふっしょく)するため、有力議員が独自の貧困対策を相次いで発表している。11月の中間選挙に向け、議論が活発化するのは確実な情勢だ。

 オバマ氏は就任以来、経済格差の是正を訴えてきたが、長引く不況の影響もあり、皮肉にも状況は悪化している。国勢調査局によると、2010~12年の全国民に占める貧困層の割合(貧困率)は15%台。3年連続で15%以上を記録したのは、1966年以降では初めてだ。フードスタンプ(低所得者向け食料購入補助)受給者も、就任時の3200万人から4700万人へと大幅に増加した。

 こうした中、保守系シンクタンク「ヘリテージ財団」のロバート・レクター上級研究員は、ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)紙への寄稿で「我々は貧困との戦争に敗北しつつある」と、過去50年の貧困対策を批判した。ジョンソン大統領が掲げた目標は「国民に自分たちの能力を発展させる公平な機会を与える」ことだったにもかかわらず、当時に比べて16倍に膨れ上がった福祉予算が、貧困層の経済的自立ではなく政府依存を高める結果を招いているためだ。

 米国で生まれる子供のうち婚外子が占める割合は、1963年の6%から41%に上昇。男女が結婚して家庭を持ち、支え合って子供を養うという概念が崩れつつあると言えるが、その背景には手厚い保護によって母子家庭でもやっていける現実がある。レクター氏は「福祉が一家の稼ぎ手である夫の代わりになってしまっている」と指摘した。

 共和党きっての財政通で、次期大統領選有力候補の一人であるポール・ライアン下院予算委員長も、過去の貧困対策を「失敗だった」と断言する。「シングルマザーの収入が1万㌦から4万㌦に増えても、その大半は税金と福祉手当の削減で失われてしまう。これは働いたり、より良い仕事を見つける意欲を削(そ)ぐものだ」と指摘。自立意欲を削がれた貧困層は結局、貧困から抜け出せないという「貧困の罠(わな)」を、米政府はつくり出してしまっていると批判した。

 一方、ブッシュ前政権で大統領報道官を務めたアリ・フライシャー氏は、WSJ紙への寄稿で「オバマ大統領は所得の不均衡を是正したいと思うなら、所得の再分配ではなく、現代の貧困の主要因である家庭崩壊との戦いに焦点を当てるべきだ」と主張した。

 2012年の貧困率は、母子家庭が33・9%であるのに対し、結婚しているカップルの家庭は7・5%と4分の1以下だ。人種別に見ても、09年の結婚していない家庭の貧困率は、白人が22・0%、黒人が35・6%、ヒスパニック系が37・9%だが、結婚している家庭では、それぞれ3・2%、7・0%、13・2%と圧倒的に低い。

 結婚によって生計が安定するのは統計的にも明らかだが、レクター氏は「現在のプログラムでは母親が職を持つ父親と結婚すると福祉手当が大幅にカットされる」と指摘。同氏は「結婚離れ」を助長する福祉政策を改めるべきだと強く主張している。