米企業への中国の圧力に対抗を、NBA問題で専門家

 米プロバスケットボール協会(NBA)の人気チームの幹部が先月初め、ツイッターで香港の反政府デモを支持した後、NBAが釈明に追い込まれた問題で、その対応に米議員らから批判が相次いだ。一方、中国の圧力に一企業だけで対抗するのは限界があるとして、政府が支援することや米企業同士で連携して行動規範を定めることが必要との声も上がっている。
(ワシントン・山崎洋介)

政府の介入・支援求める
企業間で連携し行動規範策定も

 先月4日、NBAの人気チーム「ヒューストン・ロケッツ」のゼネラルマネジャー、ダリル・モーリー氏は、ツイッター上に「自由のために闘おう。香港と共に立ち上がろう」と書かれた画像を投稿するなど、香港の民主派デモへの支持を表明。これが中国による強い反発を招いた。

アダム・シルバー氏

先月8日、埼玉県で記者会見する米プロバスケットボール協会(NBA)コミッショナーのアダム・シルバー氏(UPI)

 中国国営テレビがNBAのプレシーズンマッチを放映しないと発表したほか、中国の公式パートナー企業全社がNBAとの提携を中止した。

 中国市場を重視するNBAは、モーリー氏のコメントについて「中国の友人やファンの感情を深く害した。残念に思う」とする声明を発表し釈明した。しかし、この対応に対中警戒感が高まっている超党派の米議員が一斉に批判。ツイッターなどで「人権よりも金もうけを優先した」などと非難した。

 ペンス副大統領もワシントンで先月24日に行った対中演説の中で、NBAが「言論の自由を封じ、(中国の)完全子会社のように振る舞った」ととがめた。

 米国内で批判が広がる中、NBAを中国の圧力の矢面に立たせるのではなく、米政府が介入して支援すべきだとの声も上がる。

 ニュート・ギングリッチ元下院議長は先月25日、米メディアに「個々の企業に対し、主権国家全体に立ち向かうように要求することはできない」と指摘。「中国に圧力をかけられた企業が米政府に頼ることができる仕組みを考えることが必要だ」と強調した。

 米シンクタンク、ハドソン研究所のマイケル・ピルズベリー中国戦略センター所長も先月9日に出演したテレビ番組で、NBAの対応について「容認することはできない」としつつも、米企業は「中国の力によって、破産に追い込まれることもあり得る。米政府の支援が不可欠だ」との考えを示した。

 昨年、米ホテルチェーンのマリオットインターナショナルが、顧客向けにメールで実施したアンケートの中で「台湾」を国として扱ったなどとして、謝罪に追い込まれた。また、米航空大手3社は、中国の要求を受け、インターネットの予約サイト上で都市名と共に記載されていた「台湾」の表記を削除するなど、米企業への圧力が強まっている。

 今回、NBAコミッショナーのアダム・シルバー氏は、中国からモーリー氏に対する解雇要求があったとしている。

 シンクタンク、新アメリカ安全保障センターのピーター・ハレル上席研究員は最近発表した論文で、「中国は米産業界全体に圧力をかけることは好まない」と指摘。米企業は連携して共通の行動規範を採用すれば、中国の圧力に抵抗する力を持つことができると主張した。

 その行動規範には、中国に批判的な意見を公表した社員を罰しないことや他企業が中国からの圧力を受けた場合に共同で対応するなどの規定を盛り込むべきだとした。

 ハドソン研究所のマイク・ワトソン研究員は、1930年代に米国のジャーナリズムと学界、経済界がドイツのナチスから圧力を受けたと指摘。その際に、当時のキリスト教組織は市民社会やビジネス界の一部と連携し、ドイツ政府による人権侵害に協力しないなどとする誓約に署名することを奨励する運動を起こしたと紹介した。

 ワトソン氏は、その例に倣うべきだとして、中国と取引する米企業は「中国共産党による人権侵害を直接または間接的に幇助(ほうじょ)する行為はしない」などの誓約を行うべきだと主張した。