正念場迎えるイラン核問題協議

制裁緩和に経済浮揚効果

 11月下旬に欧米など主要6カ国とイランが、核問題協議で暫定合意に達した。双方の協議は今後、イラン核兵器開発プログラム廃止、欧米の対イラン制裁解消を含む最終合意を目指す。中東情勢を激変させうるこの協議は正念場を迎えている。
 (ワシントン・久保田秀明)

国力回復を警戒するスンニ派

核爆弾製造不能にできるか

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イラン核合意の成立を受け、握手するザリフ・イラン外相(左)とケリー米国務長官(中央)=2013年11月24日、ジュネーブ(AFP=時事

 国連安全保障理事会常任理事国(米英仏中露)とドイツの6カ国は11月24日、ジュネーブでのイランとの協議で、イラン核問題に関する第1段階措置で合意した。この暫定合意では、イランによる濃縮度5%以上のウラン濃縮の停止、20%の濃縮ウラン備蓄無効化、核施設への査察受け入れなどをイランが約束。その見返りとして、6カ国は、6カ月間はイランへの追加制裁はしないことを約束し、42億㌦相当のイラン石油販売許容、希少金属、自動車などの制裁停止などの対イラン制裁緩和を実施することが規定されている。

 この暫定合意から6カ月間は第1段階と位置付けられ、両者は共同委員会を設置し、暫定合意の具体的な実施、その履行状況の監視・検証を行う。イランが確かに暫定合意を履行していることが確認されれば、最終合意への本格的協議に入る。その意味でこの6カ月間は「信頼醸成期間」でもある。国際原子力機関(IAEA)は12月に入ってから査察官をイランに派遣し、西部アラクの核施設、ウラン濃縮施設などの査察活動を開始している。

 すでに主要6カ国とイランの暫定合意の経済的効果は出始めている。イランのロウハニ大統領は12月8日、制裁緩和のイラン経済に対する浮揚効果がすでに表れていることを強調した。イラン政府は1月にイラン企業代表団の米国への視察訪問を準備中だ。米国のボーイング社から航空機50機の購入、フォード社あるいはGMから1000台のタクシー用車両購入などを検討している。このほか、エクソン・モービルなどの大手米企業がイランへの事業拡大に向け動き始めた。

 1979年のイラン・イスラム革命以来冷却状態にあった米イラン関係が本格的改善に向かうようになれば、中東への地政学的影響は無視できない。中東では、イラク、レバノン、イエメン、バーレーンなどでイランがシーア派を支援し、スンニ派とシーア派の宗派対立が激化している。

 サウジアラビアはじめスンニ派王族が支配するペルシャ湾岸諸国やエジプトは、イランの核兵器開発が停止される可能性は歓迎しているものの、欧米からの制裁解除でイランの国力が回復し、中東諸国のシーア派へのテコ入れが強まり、イランの中東での影響力が拡大することを警戒している。イスラエルは暫定合意を「歴史的過ち」と批判し、イランが制裁緩和の恩恵を受けながら核兵器開発を裏で継続する事態を恐れている。

 主要6カ国とイランとの協議はこれから正念場を迎える。現在、暫定合意をどの時期にどう履行するかの専門家会合が進められているが、技術的問題が複雑で難航している。米政府は12月12日に既存の制裁にイラン企業を含めることを発表したが、イランは暫定合意違反だと強く反発し、協議が一時中断した。

 最終合意に向けての交渉では、はるかに大きな困難が予想される。最終交渉では、凍結状態にある核施設で核爆弾製造プロセスを再開できる能力をイランから奪えるかどうかが焦点だ。この点では、双方の主張に相違があるだけでなく、主要6カ国の間でも足並みがそろっていない。イランはウラン濃縮の濃縮度制限は受け入れても、濃縮活動そのものは放棄しないだろうと見られている。

 フランスは過去に核問題でイランに欺かれた経験があり、イランのウラン濃縮活動を否定すべきだという立場だ。これに対し、米国はイランに平和目的の核開発は認めざるを得ないと考えており、限定的なウラン濃縮活動は許容する方向に傾いている。19日から22日までジュネーブで行われた専門家協議では、イランのウラン濃縮の権利をめぐる意見の相違が埋まらず、協議の先行きに悲観的見方が頭をもたげ始めた。

 また米国内では、オバマ政権がイランとの和解に積極的なのに対して、米議会では民主、共和両党の議員がイランに深い懐疑心を抱いている。イランとの暫定合意にも批判的で、米上院では対イラン追加制裁法案が審議され、承認される可能性が強い。イラン国会では追加制裁が課せられる場合、最大60%の濃度を目指すウラン濃縮活動に踏み切ることをイラン政府に要求する法案を検討中だ。米議会で対イラン追加制裁が承認されれば、イランとの核問題協議は暗礁に乗り上げるかもしれない。