「革命」を台無しにしたムスリム同胞団
エジプト 翻弄されたアラブ世界
長期独裁政権打倒と自由民主主義の確立を求めた「アラブの春」が2010年12月末に発生してから丸3年。発端となったチュニジアも、影響をもろに受けたエジプト、リビア、イエメン、シリアも、民主主義の実現には至らず、試行錯誤の中で苦悩している。
(カイロ支局)
オバマ政権の支持も遠因
自由民主主義の成立を阻んだものは何か。エジプト人識者や若者らは異口同音に、「(イスラム根本主義組織)ムスリム同胞団による革命のハイジャックだ」と語る。
アラブ連盟の前エジプト大使、フセイン・ハッスーナ氏は、「彼らは権力を得たが、国家運営の経験がなく失敗した」と断言、「反対意見の官僚や社会を締め出し、組織の人間だけを登用する誤りを犯した。それが6月30日の(第2)革命をもたらした」と指摘した。
サダト元大統領のおいで、「改革と発展党」党首アンワール・E・サダト氏は、「モルシ政権最大の失政は、自分たち以外の勢力を排除し、自分たちの利益になる政策だけを推進したことだ」と断じた。
イスラム教スンニ派総本山アズハルのタイエブ総長の顧問アザブ師は「再出発したいなら、失敗を認めねばならない。最優先事項はエジプトであって、イスラムのカリフでも、個人的な利益でもない」と述べ、同胞団が、アラブ全域で同胞団支配の確立を試み、個人利益も追及したことを糾弾した。
事実、同胞団は、「アラブの春」を利用し、各国で彼らの目標、「イスラム法導入によるイスラム国家創設」実現に向け暗躍した。
チュニジアでは同胞団系イスラム政党「アンナハダ」による政権を成立させ、エジプトでは、同胞団幹部のモルシ氏を大統領に就任させた。リビアでは今、同胞団政権実現の機を窺(うかが)い、シリアではアサド政権崩壊後の政権奪取をもくろんでいる。ヨルダンでは、議院内閣制を主張して、国王による首相指名権剥奪と同胞団政権樹立を目指している。パレスチナでは、ガザを武力支配するハマス(ムスリム同胞団が母体)にヨルダン川西岸も支配させようとするなど、アザブ師が指摘するアラブ地域に「カリフ制」を復活させる野望に邁進(まいしん)した。
しかし、急速なイスラム化政策と経済無策への批判が高まり、エジプトの改革は失敗した。
同胞団幹部が大量に逮捕され、各国の同胞団も力を失いつつある。エジプトでは、逮捕されたバディア団長の後任の名前すら公表できず、ついに昨年12月25日、テロ組織に指定された。
ハッスーナ氏は、同胞団政治を糾弾した昨年6月30日の国民集会を「数百万の人々が街頭に出て政権のチェンジを求めた。これは人民革命だった。軍は、ムバラクを追放しようとした国民を支持したように、同胞団政権を追放しようとした民衆を支持した。ムバラクを追放したのは軍ではなく国民だったし、同胞団政権を追放したのも国民だ。軍はただ、国民と共にあることを決断したのだ。これが、私が見た出来事だった」と、述懐した。
ところが、この同胞団を支持するアラブの一国がある。それはカタールだ。なぜかとの問いに、タンタ大学で教鞭(きょうべん)を執ったルシディ氏は、「オバマ米政権が同胞団をまだ支持しているからだ」と答えた。
オバマ政権は、今後の中東政策の中心にアラブ圏全体に影響力を持つムスリム同胞団とトルコを据え置いたとされる。米国は双方を過激派と対峙(たいじ)できる穏健派イスラムと認識したのだ。しかし、同胞団は、イスラム法とイスラム国家に固執するイスラム組織であって民主組織ではなく、武力行使もいとわないテロ組織の側面も持ち合わせている。エルドアン・トルコ首相の出自はイスラム過激派で、目標はオスマントルコとカリフ制の復活にあり、民主国家ではない。同首相のイスラム化と強権性、独裁姿勢は今、国民の反発を招いている。
アザブ師は、「9・11事件後、米国は、世界の次世代の力はイスラムの手になると考え、政治と宗教を兼ね備えたイスラム主義者と連携し、同胞団を(昨年)6月30日まで支持し続けた。米国は、イスラム教徒がアラブ諸国内で増えることは簡単だと考えたのだ」と指摘、さらに、同胞団を「宗政一致のイスラム主義者」と呼び、「米国を利用しようとしたが、エジプト国民がそれを破綻させた」と結んだ。一方、「トルコ(のエルドアン政権)は、この地域の指導国家になる夢を抱き、若者をだまし、イスラムのカリフの地位を取るつもりだ」と述べた。