核開発の権利主張するイラン
危機感強めるイスラエル
イランと国連安保理常任理事国にドイツを加えた6カ国が9、10の両日、ウィーンで、イラン核開発問題をめぐる専門家会議を開催、先月24日に合意した「第一段階の合意」の履行日程を協議した。国際原子力機関(IAEA)の査察官は8日、プルトニウム型核兵器開発の懸念があるイラン西部アラクの重水炉を視察した。順調に進んでいるように見えるものの、ロウハニ・イラン大統領は、ネタニヤフ・イスラエル首相が指摘する「羊の衣をまとった狼」なのか。肝心のところで「譲れない一線」を連発するイランの姿勢に、イスラエルは焦燥感と危機感を強めている。
(カイロ・鈴木眞吉)
外交実績上げたい米大統領
イランと6カ国が、半年を効力期間として合意したイラン側の義務は、①核兵器開発につながる恐れのある5%超のウラン濃縮活動の停止②濃縮度20%のウランの希釈③低濃縮ウランの保有量を現行の6㌧から増やさない④アラクの重水炉建設停止⑤ナタンツ、フォルドゥの濃縮施設への徹底査察承認。
国際社会側は、①イランの海外への原油売上代金約70億㌦のうち42億㌦の受け取り承認②15億㌦に相当する貴金属や石油化学製品、自動車、航空機の予備部品などの禁輸の一部緩和③イランが合意を順守する限り、新たな経済制裁を課さない、などだ。
ロウハニ大統領は同日、「イランの核開発とウラン濃縮の権利が世界の主要国に認められた」と歓迎、ハメネイ・イラン最高指導者も合意を歓迎した。
それとは対照的に、ネタニヤフ・イスラエル首相は、「歴史的誤り」「イランが望んだものを与えた悪い取引だ」と批判、リーベルマン同国外相は「(ウラン濃縮権利承認は)イランの外交的勝利で、ネタニヤフ政権は戦略的見直しを迫られることになる」と述べ、合意を厳しく批判した。
オバマ米大統領は「ここ10年近くで初めてイランの核計画の進展を止めた」と評価するも、イランが合意内容を完全に履行しない場合は「制裁の緩和をやめ、圧力を強める」とくぎを刺した。協議が長引く間に、イランは2005年当時300基の遠心分離機を約1万9000基まで拡大、濃縮度20%のウランを400㌔も所有するようになったのだから、止めたことの意義はそれなりにある。
ところが今回の合意では、1万9000基もの遠心分離機は1基も破壊されない。アラクのプルトニウム施設も現状維持。イランは、3・5%のウランを1カ月以内で20%にまで濃縮する能力を持つ以上、遠心分離機を解体しない限り、数カ月で核を持つことができる。
ネタニヤフ首相は、「合意はイランにウラン濃縮の継続を許し、核開発の本質的部分を残した」と批判し、「遠心分離機を残し、核兵器のための原料生産を許している」と糾弾した。
同首相は、北朝鮮が2005年に核放棄を約束しながら、その後豹変(ひょうへん)して世界をより危険にさらしている例を挙げ、「制裁の圧力を掛け続けなければイラン政権には核開発放棄の動機がなくなる」として、制裁緩和にも強く反対した。
今回の合意は、全面的な解決である「包括合意」に向けた「第一段階」。今後の6カ月間を「信頼醸成期間」とし、IAEAによる査察などを通じ、「平和利用のみ」であるかどうかを監視・確認の上、包括合意につなげる。共同行動計画では、1年以内に最終合意をまとめ、履行を開始することになっている。
ネタニヤフ首相があくまで、イラン核関連施設の解体を目指すべきとしているのに対し、ロウハニ大統領は11月29日、「100%容認できない一線だ」として一蹴した。サレヒ原子力庁長官は12月1日、アラクの重水炉は「越えてはならない一線」で、放棄しないと表明した。
イランが核にこだわるのは、「北朝鮮は核を保有していたので攻められなかったが、イラクやリビアは保有していなかったので攻められた」との教訓があるとされる。
イランは既に、石油・ガス投資融資誘致へ欧米企業と協議を始めた。権利と緩和を既成事実化する意図があるとみられる。
包括合意に至るには、イランが核兵器開発の野望を完全に断ち切ったと証明することが絶対条件だが、そこまで踏み切れなければロウハニ大統領は「羊の衣をまとった狼」だったことになる。イランは今、正念場に立たされている。
しかし、より懸念されるのは、外交実績を焦るオバマ米大統領が、明確な検証なしに合意することだ。オバマ氏は7日、外交交渉が成功する確率は最大で50%との見方を示し、厳しさが増していることを示唆した。