エジプトで日本式教育導入へ
エジプトに日本式教育が導入されようとしている。導入を目指しているのは「特別活動(略して特活)」で、既に12校がパイロット校として指定され、実施されている。文化のかなり違うエジプトに日本式教育が根付くかどうかは未知数だが、成功すれば、さまざまな波及効果が予想される。(カイロ・鈴木眞吉)
掃除や学校行事通じ協調性、自立性を育成
パイロット校に12校指定し実施
導入のきっかけは、昨年1月、シシ大統領が、同国を訪問した安倍晋三首相に、日本の教育への強い関心を伝えたことだ。
理由の一つは、第2次世界大戦後から驚異的な復興を遂げた原因の一つが、国民教育の成功にあったと捉えたことにある。さらに、震災など災害時に、食料の争奪もなく、助け合う日本人の姿に、日本の教育の素晴らしさを感じたことも一因だ。シシ大統領自身、「日本人は歩くコーラン(イスラム教の経典)」と明言、日本人の行動がコーランの教えを実践していると高く評価している。
2月に日本を公式訪問したシシ大統領は、安倍首相とともに「エジプト・日本教育パートナーシップ」を発表、特活を中心とする日本式教育の本格的な導入を目指している。
特活の重要な特徴の一つは、先生が教えるのでなく、生徒が自分で考えて行動する力を養うことだという。具体的には、共同での掃除、日直や給食の当番制、学級会、学芸会や運動会、修学旅行などの学校行事で、協調性や社会性、自立性、倫理性などを育成する。日本の学校では当たり前に行われていることだが、エジプトにはない制度だ。
エジプト政府は既に100校を指定し終え、2017年9月からの開校を目指している。数年以内に約200校(国内全校の1%)に拡大、うち100校は、全く新しく造る学校だ。成果が上がればさらに拡大される見通し。
試験的に導入されたパイロット校では、掃除で生徒らがチームワークで働く楽しさを実感でき、家に帰っても清掃するようになったとの評価がある一方、保護者からは、バワブ(下僕)や業者が行うもので、なぜ子供たちにさせるのかとの反発も一時あったという。エジプトでは教師の指名する特定の生徒がクラスのリーダー役だが、日直当番制の導入により、「私にもリーダー役が回ってきた」と喜び、休まず学校に通う原動力になったとの指摘もある。
日本では、「自分の机や椅子」があり、愛着も湧くし、整列も身長順で配慮し合うがエジプトでは何事でも先着順。他人への配慮を重んじる日本式教育が求められる理由の一つになっている。
4月5日、特活の第一人者、杉田洋(ひろし)國學院大學教授を迎え、カイロ市アグーザのスクールズ・スチューデント・ユニオンで、香川剛廣駐エジプト大使、教育省関係者、パイロット学校・モデル学校校長、大学教育学部関係者ら総勢350人が参加し、「特活セミナー」が開かれた。
基調講演した杉田教授は、自分自身が特活で劇的に変身したという体験を交えて、特活の目的は、生徒が将来社会に出た時に十分に対応できる社会性を養うことにあると強調、参加者から拍手が起きた。
このプロジェクトの成功の条件は何かとの記者の質問に対し、香川大使は「エジプト政府の不変の政策と、現場の先生方の情熱だろう」と、エジプト政府に教育政策の継続性を求めた。
今後、エジプトには無かった、学級会活動やクラブ活動、日直、運動会などを通じて、生徒がどのように生まれ変わっていくのか、その成果に期待したい。