エジプトとトルコの外交摩擦

イスラム内の対立浮き彫り

 エジプト暫定政権は11月23日、トルコのエルドアン首相が同暫定政権を批判したとして、駐エジプト・トルコ大使を追放した。トルコ政府も、駐トルコ・エジプト大使を追放したが、背景には、オバマ米政権の誤った中東情勢分析や、イスラム根本主義組織「ムスリム同胞団」への対応をめぐる混乱があり、イスラム教スンニ派の穏健派と急進派の対立を浮き彫りにした。

(カイロ・鈴木眞吉)

米、暫定政権支持へ軌道修正

 問題となったエルドアン首相の21日の発言は、モルシ・エジプト前大統領の大統領権限剥奪を「クーデター」と呼び、モルシ氏支持者に対する“弾圧”を「人道問題ドラマ」と表現、批判したもの。

 アラブ首長国連邦(UAE)の衛星テレビ局アルアラビアによると、エルドアン氏は演説の際、同胞団がデモなどで使う「4本指を立てる」しぐさをして、「クーデターによって政権の座に就いた者には決して敬意を表さない」との意思表示をした。座り込み抗議をした広場の名「ラバア」が、4を意味するアラビア語「アルバア」に発音が似ていることから、4本指を立てる行為は、ラバア広場で同胞団員らが虐殺されたことに対する抗議を象徴するものとなっている。

 このことは、同胞団の治安攪乱(かくらん)に悩まされている暫定政権当局者の感情を逆なですることとなり、エジプト政府は、トルコのフセイン・アブニ・ボスタリ駐エジプト大使を、「ペルソナ・ノン・グラータ(好ましくない人物)」として追放。トルコも、「国際関係の基本を成す相互主義に即して」、エジプトのアブデルラフマン・サラーハエルディン駐トルコ大使を追放した。両国間の関係は公使レベルに格下げされた。

 米国は「アラブの春」後の中東政策の中心に、トルコと同胞団を据えた。エルドアン政権の安定性を評価し、ムスリム同胞団が今後、エジプトのみならず、チュニジア、リビア、シリア、ヨルダンなどでも穏健なイスラム主義者を結集して、中東の中核的存在になると展望したのだ。

 しかし、オバマ政権の見通しは外れた。エルドアン政権による、秘密裏で着実なイスラム化政策に危機感を抱いたトルコ国民が立ち上がり、国是の政教分離主義が危機に瀕(ひん)しているとして反政府デモを行うようになった。エジプトでは、急激なイスラム化と経済無策にあきれた国民の支持を背景に軍部がモルシ同胞団政権を転覆させてしまった。

 政府系夕刊紙メサ幹部によると、エルドアン政権は長年の宿願である欧州連合(EU)加盟が壁に突き当たり、イスラム諸国のトップに立つことを目標とする外交に転じたという。これが、アラブ諸国に一定の基盤を持つ同胞団を支持する方向に向かわせたのだ。

 エルドアン氏は、軍部によるエジプトでのモルシ前大統領権限剥奪劇が、トルコでも演じられかねないことを懸念して、エジプト暫定政権批判を展開しているとの見方が強い。

 一方、米国は最近、民意から離れた同胞団ではなく、民意に支えられた暫定政権支持の方向に動いている。

 エルドアン氏自身は、穏健派を装ってはいるが、政治経歴からみて、イスラム急進派の系譜に入る人物とみる向きもある。スカーフの解禁など国家のイスラム化を巧みに推し進めている。

 ムスリム同胞団も、今は穏健派を装っているものの、テロを多用した過去の歴史や、パレスチナ自治区ガザを武力支配したイスラム根本主義過激派組織「ハマス」の母体であることから、本質的には武力を正当化する過激派団体とみられている。

 エジプトとトルコの摩擦は、国際的な視野に立ち、他宗教との共存、政教分離を是とする軍出身者や知識人ら「真に穏健なイスラム教徒」と、穏健派を偽装した急進派の対立が表面化したものと言える。