ロシア機がエジプトで墜落、224人絶望

ロシア、「イスラム国」犯行を否定

国内では航空会社に非難集中

 ロシアのコガルイム航空(通称メトロジェット航空)運行のエアバス321型機(乗客217人、乗員7人)がエジプト・シナイ半島北部に墜落した事件で、過激派組織「イスラム国(IS)」を名乗る勢力が犯行声明を出した。もっとも、ロシア政府はISの関与を否定しており、国内では老朽化した航空機を運行していたコガルイム航空に対する批判が高まっている。(モスクワ支局)

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10月31日、サンクトペテルブルクの空港で、エジプトからのニュースを聞いて顔を伏せるロシア人乗客の親族たち(AFP=時事)

 シナイ半島南部にある紅海のビーチリゾート・シャルムエルシェイクは、ロシアから比較的安く行けることもあり、ロシア人に人気の旅行先の一つだ。ロシアの団体ツアー客を乗せたチャーター便が毎日のようにロシア各地から到着する。

 10月31日にシナイ半島北部に墜落したコガルイム航空便も、ロシアの団体客を乗せたチャーター便。家族でバカンスを楽しんだ人々も多く、乗客のうち29人は子供だった。

 ロシア第2の都市サンクトペテルブルクに向けシャルムエルシェイクの空港を離陸したが、約23分後に交信が途絶え、レーダーから機影が消えた。全員絶望とみられている。事故を受けプーチン大統領は同日、11月1日を服喪の日とする大統領令に署名した。

 墜落後、シナイ半島で活動するISが、友好関係にある通信社「Aamaq」を通じて犯行声明を発した。ロシアの航空当局は、残骸が広範囲に散らばったことから「機体は高高度で空中分解した」とする推測を示している。

 もっとも、ISが使う携帯式防空ミサイルで高高度を狙うのは不可能とされる。コガルイム機は当時、高度9450㍍を飛行中だった。ロシアのソコロフ運輸相はISの犯行声明について「信憑(しんぴょう)性に乏しい」としている。エジプト政府も、コガルイム機の機体トラブルが墜落の原因との見方を示している。

 一方で複数の米テレビは、米国の人工衛星が事故当時、現場周辺で「熱源」発生を観測したと伝えており、機内で爆発物がさく裂した可能性も指摘されている。

 コガルイム航空は、主にチャーター機を運航している小規模な航空会社。保有機は中古で、平均使用期間は15年。墜落した機は製造から18年以上が経過していた。また、同機は過去に機体後部を滑走路にぶつける尻もち事故を起こしていたことが分かっている。

 ロシア軍がシリア空爆を続けており、プーチン政権にとって今回の墜落事故が、ISによるロシア市民を狙ったテロ、とのシナリオは好ましくない。

 その政権の意向を察してか、議会関係者や主要メディアなどは、古い中古機を就航させているコガルイム航空に非難を集中させている。

 下院産業委員会のグテネフ副委員長は、「ロシアの航空事故発生率は世界平均を3倍上回っている」とし、使用期間15年を超える航空機の就航を禁止する法律を制定するよう呼び掛けた。

 下院国際委員会のプシコフ委員長は、「過去5年から10年間のロシアの大きな航空事故は、保有機数10機以下の中小航空会社で発生している。コガルイム航空もそうだ。ロシアの航空会社を2社から3社に集約すべき」と強調した。

 一方、下院運輸委員会のブリャチャク副委員長は、「航空機の安全は運輸監督局と航空局の管轄下にあるが、両局の監督業務は法に従い問題なく行われている」として、政府機関に責任追及の矛先が向かぬよう早々に予防線を張った。

 以前ならば、今回のような状況下では、リベラル派野党勢力がロシアのシリア空爆とコガルイム機墜落事故を結びつけ、政権を批判する論陣を張ることも十分あり得た。

 しかし、プーチン大統領によるウクライナ・クリミア編入がロシア人の愛国心を激しく高揚させ、大統領支持率が80%を超える状況下で、リベラル派の政権批判は鳴りを潜めている。

 唯一、政権を真っ向から批判するのはロシア共産党。ジュガーノフ・ロシア共産党委員長は今回の墜落事故を受け、「連邦予算は科学・産業、専門家や人員の育成に十分な資金配分をしていない。今回の事故はそれを証明する形となった」と、政府の責任を追及。さらに「シリアとの戦いがプーチン大統領の支持率を押し上げたが、知恵ある市民は政権の抱える外交問題に気づき始めている」として、シリア空爆そのものにも疑念を呈した。