シリア内戦にロシア本格介入か

プーチン氏、欧米を牽制

 欧米諸国が、シリアなど中東・アフリカからの難民問題で忙殺される中、ロシアは着々とシリアへの「介入」を進めている。米露対立の先鋭化は、中東地域をより不安定化させる可能性を秘めている。(カイロ・鈴木眞吉)

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 ロシアが、公然とシリアへの介入を公言し始めたのは9月10日。ラブロフ外相は同日、「アサド政権への軍事支援を必要に応じて強化する用意がある」と述べた。その理由として、「リビアのシナリオを、シリアで繰り返すことは避けたい」とした。

 ロシアはかつて、カダフィ政権崩壊によるリビアの混乱を目の当たりにし、アサド政権崩壊によるシリアの混乱を憂慮しているのだ。ただし、ロシアの本音は、両国への権益を維持することにあるとみられている。

 ロシアのぺスコフ大統領報道官も10日、「(過激派組織『イスラム国=IS』に)抵抗できる唯一の勢力はシリア政府だ。ロシアはアサド政権の支援を自らの責務と考える」と述べ、支援の正当性を主張した。

 ラブロフ外相も、軍の専門家のシリア長期滞在を認めた上で、「(ISと戦うアサド政権が)ロシア製兵器を使用できるよう支援しているだけ」と釈明。シリア向けのロシア輸送機に「軍事目的の物質」を積んでいることを認めた。また「国内法と国際法、国際的責務、シリア政府と周辺国の要請と同意に完全に基づいて行動する」と説明、軍事介入へ含みを残した。

 ロシア紙コメルサントは10日、ロシアはアサド政権に対し、小火器やロケット弾、装甲兵員輸送車BTR82A、軍用トラックなどを供与していると伝えた。

 これらの動きに対し、米当局者は、ロシアが9月6日から10日までの間に、艦船や装甲兵員輸送車、海軍歩兵部隊を派遣し、アサド政権を支援しているようだとの見解を示した。

 一方、ラブロフ外相は、ロシアの介入が欧米諸国の対IS軍事作戦を妨げるとの見方を「理解不能な論理」と一蹴している。

 シリア国営放送は12日、ロシアからの2機の輸送機が、西部のラタキアのアサド国際空港に、80㌧の支援物資を積んで到着したと報じた。

 しかし、ロシアの介入が、顕在化したのは、シリア人権監視団が13日、ロシアが、ラタキア県の軍用飛行場に滑走路を建設、軍事顧問や技術者を派遣したと発表してからだ。飛行場には数週間前から、ロシア人の軍事顧問や技術者ら数百人のほか、軍装備品を載せた軍用機が次々と到着しているという。

 またロシアは、タルトゥス県でも、飛行場の拡張工事を行っているという。

 プーチン・ロシア大統領は15日、タジキスタンの首都ドゥシャンベで演説し、「ロシアがシリアのアサド政権を支援しなければ、難民の流入はさらに増大するだろう」と述べ、シリアへの軍事支援を批判する欧米諸国を牽制(けんせい)した。

 一方、米国のサマン・パワー国連大使は14日、ロシアのアサド政権支援について「勝利につながる戦略ではない」と語り、「自国民を虐待するような政権に肩入れしてもうまくいくはずがない」と明言した。

 ロシアが本格的に介入を開始した理由の一つは、イスラム武装勢力による首都への攻撃が激化、アサド政権側の弱体化傾向が顕著になったからとみられる。