空爆開始から1年超 「イスラム国」の勢い衰えず

化学兵器使用の可能性も

かつてない大量虐殺の危険

 米国がイスラム過激派組織「イスラム国(IS)」への空爆を開始してから1年余りが経過した。ISの勢いは衰えておらず、その蛮行は残虐さを増し、ついに世界遺産パルミラの重要神殿を爆破した。最近は、ISによる化学兵器使用の情報が頻繁に発せられ、事実とすれば、「狂信」を背景に、かつてない大量虐殺が予想される。人類全体が危機に直面する可能性も懸念され、国際社会は、対応を迫られている。
(カイロ・鈴木眞吉)

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米軍主導の有志連合による空爆で立ち上がる黒煙=2014年11月、シリア北部アインアルアラブ(AFP=時事)

 米中央軍は8月7日、「有志連合が主導権を握っており、ISは形勢不利だ」と説明したが、AP通信によると、IS戦闘員の数は2~3万人で、空爆開始前から減少しておらず、情報機関関係者は「戦略的な手詰まり状態にある」と指摘した。

 米国は地上戦闘部隊派遣を拒否、空爆と、対IS戦闘員の訓練などにとどめている。空爆は6千回以上に及ぶが、効果は限定的と方々から指摘され、戦闘員訓練では目を覆うばかりの惨状を露呈した。カーター米国防長官は7月7日、訓練中のシリアの戦闘員数は「望んでいたよりはるかに少ない、(年5千人の計画に、7月3日時点で)約60人だけ」と認め、国内外に衝撃を与えた。

 8月だけを見ても、ISは5日夜、シリア中部のカルヤタインに侵攻、6日にキリスト教徒約60人を含む約230人を誘拐した。12日、エジプトの首都カイロ郊外で7月22日に拉致したクロアチア人男性を、条件とした女性囚人の解放がないとして斬首した映像を公開した。

 国営リビア通信は15日、ISは同国北部の都市シルトで12人を斬首して十字架に吊(つ)るし、戦闘に参加した入院中の住民22人も処刑、病院に放火したと報じた。この戦闘で約200人が死亡、同国の駐仏大使は14日、「虐殺が行われている」として国際社会の介入を求めた。

 シリア国営通信は18日、パルミラでシリア人考古学者ハーリド・アスアド氏(81)が斬首され、遺体が遺跡内の列柱に吊るされた、と報じた。パルミラの遺物の保管場所言及を拒否したことが原因とみられる。

 ISはついに23日、約2000年前建造の遺跡中2番目に重要とされるパールシャミン神殿を爆破した。

 もう一つ気になるのは、イラク首都バグダッド周辺への攻撃が続いていることだ。13日朝、サドルシティーの青果市場で爆弾が爆発、76人が死亡、3日前の10日にはバクバの連続テロで58人が死亡した。7月にはハンバニサドで115人が死亡した。イラク政権内の分裂を待ち、首都進攻を意図しているのかもしれない。

 イラクの北部都市モスルと周辺住民に対する処刑は、ISが支配した昨年6月以来2070人に及んだ。警察官や元軍人、公務員、弁護士、医者、人権活動家などが殺害されたが、その理由は「イスラム教の教えを歪める思想を広めたためだ」という。

 女性は奴隷として強制結婚させられ、年齢によって数十から数百㌦で転売される。ISの最高指導者バグダディ容疑者自身が、ISが人質に取り2月に死亡した米国人女性ケイラ・ミューラさんを性的に虐待していたことが判明した。

 ISは21日、イラク・アンバル州で同国軍兵士53人を殺害、23日にも兵士23人を殺害した。軍事的にも着実に勝利を収めている。

 思考・信仰の異常さは1大問題だが、さらに重要問題が浮上、最大の懸念になってきた。それはISが化学兵器を使用したとされることだ。

 米紙ウォール・ストリート・ジャーナルは13日、米高官の話として、ISが、イラクのクルド人部隊に猛毒のマスタードガスを使用したとみられると報じた。シリア、イラクの両国で入手したことが考えられるという。

 米当局者は14日、ISがシリア北東部ハサカを攻撃した際、マスタードガスを使用したことを裏付ける検証結果が得られたと米メディアに明かした。これはマスタードガスを生成する際にできる「前駆物質」の可能性もあり、ISが独自に生成したものとみられている。

 キリア米海兵隊准将は21日、ISがクルド人治安部隊を攻撃した際の迫撃砲弾の破片から、マスタードガスに使われる成分が検出されたと語った。

 断定までには数週間を要するが、マスタードガスの使用が結論付けられれば、ISの脅威は飛躍的に高まる。