着実に支配拡大するイスラム国

オバマ氏は地上軍拒否に固執

 イスラム教スンニ派過激派組織「イスラム国(IS)」は、着実にその勢力を拡大し、再びイラクの首都バグダッド攻略の動きを見せている。IS入りを計画した北海道大生や、彼を仲介した元教授の存在が明らかになるなど、中東・欧米のみならず、アジア・日本にまでその影響が拡大している。対シリア政策にも見られたことだが、就任以来、常に後手後手の軍事戦略しか打ち出せないオバマ米大統領は、IS対策でも、「地上軍投入拒否」にこだわり、ISの急激な拡大を防げず、国内外の批判にさらされている。(カイロ・鈴木眞吉)

「コーラン」などで思想統制強化

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8日、シリア北部アインアルアラブで、空爆で立ち上る黒煙(AFP=時事)

 ISは6月29日にイスラム国家樹立を宣言した。公開処刑などを通じて住民を「恐怖支配」し、イラクのクルド系少数宗派ヤジディ教徒に「改宗か死か」を迫るなどしたことから、オバマ大統領はISへの空爆を決断、米軍は8月8日、イラク北部アルビル近郊で初の空爆を実施した。

 空爆がそれなりの効果を上げたのは、8月中旬以降行われたモスル・ダムやハディサ・ダムを防衛する時までだ。

 ISは空爆に反発、8月19日に、米国人ジャーナリストを斬首するビデオ映像を公開、その後、米・英軍に警告する形で、米英人の処刑を繰り返し、犠牲者は4人になった。

 米国は9月23日、アラブ友好国と共にシリア領内を空爆した。

 空爆だけでは、ISを殲滅(せんめつ)できないとの国内外の意見は当初からあったが、それが明確化してきたのは、ISが、トルコ国境にあるシリア北部の町アインアルアラブ(クルド名・コバニ)への攻略を開始してからだ。

 米主導の有志連合による空爆強化にもかかわらず、IS部隊は10月6日、同町の中心部を制圧、9日までに町の3分の1を掌握、翌10日にはクルド人部隊司令部を含む町の半分を制圧した。

 国連は、高齢者約700人を含む住民ら約1万2000人以上が残留しており、ISが町を陥落させれば、「大量虐殺が行われる」と警告した。

 しかし、米軍は10日午後、クルド人部隊司令部付近に4回の空爆を実施しただけで、有効な手立てを講じず、ISの進撃を許している。空爆の効果が限定的なことを端的に示した事例だ。

 一方ISは11日、バグダッドと近郊で、自爆を含む連続車爆弾テロを行い、45人以上を殺害。首都陥落に向け、1万人規模の部隊を13㌔の地点まで送り込み、地上軍投入をためらう欧米諸国やトルコの足元を見透かし、首都攻略の準備を整えつつある。イラク国軍は13日、首都に近いアンバル州ヒットから撤退した。デンプシー米統合参謀本部議長は、IS部隊が、首都の空港から25㌔地点まで迫っていると証言した。

 米国のマキオン下院軍事委員長は8日、「オバマ氏のイラクでの戦略は失敗する」と明言、「米地上軍の派兵など、空爆だけの戦略に代わる新しい方法を考える必要がある」と主張した。

 最近回想録を出版したパネッタ前米国防長官は、シリアのアサド政権が化学兵器を使用した時に軍事介入しなかったことや、シリアの反体制派に武器供与しなかったことを批判、オバマ氏の最高司令官としての洞察力や決断力の無さ、無能さを糾弾した。オバマ氏が大統領職にある限り、局面打開は困難との絶望感が拡大している。

 米メディアによると、ISは、10月12日発行のオンライン機関紙で「異教徒の女性を性奴隷として扱うことはイスラム法(シャリア)上、正統な行為だ」と主張したという。

 一部報道によると、ISは、歴史や哲学、芸術の授業を撤廃して、イスラム教の聖典「コーラン」の授業を導入するなど、教育カリキュラムを大幅に改変、思想統制を強化している。

 AFP通信によると、ISの戦士たちは、預言者ムハンマドの言行録にある「預言」を信じ、その実現を期している。その預言とは、「シリアの町ダビクで、80の軍旗を掲げた背教徒の軍勢が、イスラムの軍勢と終末的な戦いを繰り広げ、イスラム教徒たちは殺戮(さつりく)されるが最後には勝利し、終末の到来を告げる」というもの。

 ISは8月にダビクを制圧した。米国とその同盟国を「現代の十字軍」、「80の軍旗」は、この十字軍に加わる国の数と考えている。現在は約60カ国だ。預言では、イスラム軍勢は戦いの後、コンスタンチノープル(現在のトルコのイスタンブール)に進軍し、同市を陥落させるとされ、戦域はトルコまで拡大される可能性がある。