世界に拡大するイスラム過激派思想
ナイジェリアのイスラム過激派組織「ボコ・ハラム(西洋の教育は罪)」が276人の女子生徒を誘拐して7週目を迎えた。キャメロン英首相をして「悪魔の仕業」と言わせた、「奴隷として売り飛ばす」などの残虐行為は、国際テロ組織アルカイダやアフガンの「タリバン(神学生の意)」など、全世界に拡大する過激派組織が持つ共通特性だ。さらにイスラム法に固執、「独善、排他、後進性」を備え、国際社会が目指す「自由民主主義社会」に対し、逆戻りを主導、世界中に混乱を引き起こす“がん”と化している。(カイロ・鈴木眞吉)
ムスリム同胞団が暗躍
各国の「アラブの春」を台無しに
同過激派が共通に持つ特徴の第一は、「厳格なイスラム法(シャリア)」に固執、地域や国家への適用を断行したがること。信教の自由を侵害し、宗教戦争や内戦を引き起こす原因となる。スーダン内戦が典型だった。
最近では、ナイジェリアや中央アフリカ、マリ、ソマリア、チュニジア、エジプト、リビア、イエメン、シリア、ヨルダン、パレスチナ(ガザ)、トルコなどにも見られる。シリアでは、過激派が支配地域にイスラム法を導入、女性にニカブ着用を強要するなど、宗教警察的活動を展開した。
第2の特色は、「自分の信じる宗教だけが正しい」とする「独善性、排他性」だ。イスラム教の聖典「コーラン」の文字をそのまま「神の言葉」と信じる信仰から来る独善性は、他の宗教や思想を学ぶことすら禁じ、狭い視野の中に信者を閉じ込め、「井の中の蛙、大海を知らず」状態にとどまらせる。ボコ・ハラムやタリバンによる女性教育不要論も、この脈絡から出てくるのだろう。
第3の特色は、各種後進性。第1は、野蛮な刑法。手足を切断する、喉を切る、石打ち、鞭打ちなどの残虐刑だ。彼らは時代錯誤的世界に生きている。
後進性の第2は、女性の人権軽視だ。「男性が4人まで妻をめとれる権利」をはじめ、名誉殺人と言われる、娘や妹が勝手に男性と付き合ったとして、父親や兄が殺害することが正当化される。
後進性の第3は、割礼だ。女子割礼は傷害を残すことから、人権団体から改善を求められながらも放置、イスラム教スンニ派総本山アズハルが、「健康と性を害する」との声明を出したのは、タンタウィ前総長の時代だ(アザブ総長顧問)。それまで事実上公認され、現在も改善が遅々として進まず、エジプトでさえ女性の9割が受けている。
暴力を捨てたとうそぶき、穏健派だと公言する「ムスリム同胞団」は、シャリアの憲法への導入とイスラム国家建設に固執、時に爆弾を爆発させ、武器使用もすることから、エジプトでは“過激派”と見なされている。さらに問題は、イスラム各組織に資金や武器を調達・提供、“世界イスラム化”を目指して、世界中で暗躍していることだ。ムバラク元政権は同胞団を「過激派を生む温床」として非合法化、暫定政権は「テロ組織」に指定した。
真の穏健派は、他宗教を認めて尊重し共存を図り、残虐刑に反対、国際的視野に立って平和を求めるイスラム教徒だ。エジプトではそれが主流で、同胞団政権にあきれ果て、大統領選ではシシ前国防相を推している。コプト教徒(エジプトのキリスト教徒)もシシ氏支持で一貫している。
ムスリム同胞団を含むイスラム過激派は、アフリカではナイジェリア、マリ、中央アフリカでキリスト教と対立、宗教戦争と女子教育問題を引き起こし、中東では、エジプトで、「アラブの春」の理想と正反対のモルシ政権を誕生させ、革命を奪って混乱を長期化させた。治安を悪化させ、観光客を激減させ、経済を極度に悪化させた。リビアでは国内対立を助長、無政府状態を招来させた。チュニジアではあわや同胞団政権誕生寸前まで事態が進んだ。イエメンは、アルカイダ系武装勢力の本拠地と化した。シリアでは、内戦に介入して大混乱させ、アサド氏退陣と内戦終結の道を阻んだ。世界中に迷惑を掛け、混乱に陥れる“がん”と化している。
過激派拡大の原因を貧困にすり替える論調も多いが、世界イスラム化を目指す宗教体質が本質的原因。アラブ諸国は今、アラブの春を妨害し、各国を混乱に陥れたムスリム同胞団を中心とするイスラム過激派勢力に対する糾弾を開始し、真の民主化に向け動きを始めた。その先鋒が大統領選最中のエジプトだ。チュニジアも同胞団の進出を抑えている。リビアでは、「同胞団粉砕」を掲げるハフタル元軍将校の動きが急だ。