エジプト大統領選の阻止を掲げ活動 ムスリム同胞団、大規模テロを画策か
モルシ前エジプト大統領の出身母体、イスラム根本主義組織「ムスリム同胞団」の動きが、中東諸国の民主化や世界の将来に暗い影を投げ掛けている。同胞団は、エジプトを中心にパレスチナやリビア、チュニジア、ヨルダン、シリア、カタール、トルコ、イエメンなどに浸透、英国を含む欧州諸国やカナダ、米国にまでその組織を拡大、「世界赤化」ならぬ「世界イスラム化」を目指して、イスラム過激派諸団体と背後で協力し、日夜活動を続けている。(カイロ・鈴木眞吉)
暫定政権が取り締まりを強化
同胞団は1928年、「西洋からの独立とイスラム文化の復興」を掲げ、エジプト北東部イスマイリアで、「イスラム法(シャリア)によって統治されるイスラム国家の確立を目指す」団体として、小学校教師ハサン・バンナールにより結成された。
「イスラム法とイスラム国家」に固執する独善的・排他的性質からして、「信教や言論の自由を保障する民主主義」とは正反対の「イスラム独裁に向かう団体」で、「上意下達のみあって、下意上達が無い組織」(ルシディ元タンタ大学教授)との評さえある。
同胞団はエジプトでは、抜群の組織力を活用して、2010年暮れのチュニジアに端を発した「アラブの春」による“革命”を、当初の主体勢力だった若者らから乗っ取った。しかし、急激なイスラム化と経済無策により国民の信を失ったモルシ同胞団政権は、わずか一年で政権の座を追われ、現在は、その後に誕生した“暫定政権憎し”から、治安攪乱(かくらん)による同国経済の麻痺(まひ)を図り、新憲法と大統領選阻止を掲げて活動している。
そのエジプトに最近、同国情報筋からさらに深刻な情報がもたらされた。地元テレビによると、同胞団はリビアの縫製工場でエジプト軍の軍服を製造し、近い将来、「自由エジプト軍」を名乗って軍服を着用、大統領府や空港、刑務所、スエズ運河、事もあろうにアスワン・ハイダムも標的に大規模テロを実行する計画を持っているという。ダムが崩壊すれば、川の流域や首都カイロは大洪水に見舞われ、大惨事になることは必至。
活動資金は、サウジアラビアからの影響力を嫌忌し、独自路線を取りたいカタールや、オスマン・トルコ時代の版図拡大野望実現のため同胞団を利用するエルドアン・トルコ首相下の情報機関などが提供しているとされる。エジプトの地元テレビは、同首相が同胞団の国際組織の指導者の1人だと報じた。
同胞団が、執拗(しつよう)に抵抗し続け、カタールやトルコが本気で肩入れしている理由の一つは、オバマ米政権の同胞団支援政策によるとの考えは、カイロでは常識だ。
エジプトのマスコミによると、オバマ大統領は、父親がイスラム教徒であることで既にイスラム教徒だが、オバマ氏の異母兄弟がケニアのムスリム同胞団の指導者であり、現在は米国に同胞団を設立、イスラム教徒拡大の指揮を執っている、とされる。
ルシディ元タンタ大学教授は、2001年の米同時多発テロ以来、イスラム過激派に頭を悩ませてきた米国に取り、穏健派を装った同胞団は過激派を抑え込める勢力と考えたことがその理由とみる。しかし現実的な米国は、これが大きな誤解と認識し始めたようだ。制裁対象だった攻撃ヘリ、アパッチ10機の供与を含む約6億5000万㌦(約670億円)を解除するのは一例。
「世界イスラム化」を標榜(ひょうぼう)する姿勢は、「世界赤化」を目指した共産主義と酷似しているが、共産主義以上に強固と見られる理由は、同団体が、死をも厭(いと)わない“宗教集団”であるからとの見方もある。
ただ、エジプトに反同胞団の暫定政権が誕生、同胞団への取り締まりを強化して、28日には683人に死刑判決を下すなどの対策が取られており、チュニジアではその影響で、同胞団に乗っ取られそうになった政権が正常化の道をたどり始めている。カタールは湾岸諸国の圧力を受け、同胞団指導者をリビアに移動させる。英国とカナダは、同胞団の本質を見抜き、テロ組織に指定した。
「世界イスラム化」により、全世界にイスラム独裁体制を許すか、信教と言論の自由を基礎にした自由と民主主義体制を世界的に維持・拡大し得るかは、アラブ世界を含む全世界が、同胞団の本質を見極め得るかどうかにかかっている。