まだ見えぬ非核化の真実性 高 高 永喆氏


米朝会談 識者はこう見る

拓殖大学主任研究員 高 永喆氏

 今回、米朝首脳会談の直前、トランプ大統領と初対面した金正恩朝鮮労働党委員長の第一声は「足を引っ張る過去、誤った偏見と慣行を全て乗り越えてこの場に来ました」だった。

高 永喆氏

 トランプ大統領は正恩氏の発言を聞いて即座に握手を交わし、正恩氏の前向きな非核化の意思を確認したわけだ。

 今回、正恩氏が多数の側近・スタッフを連れて来た背景には、不在中にクーデターが発生した場合の海外亡命政府を視野に入れた対応だったと考える。

 それを裏返して見れば、金正恩政権が生き残るために米朝首脳会談を命懸けで実現したかったという証しでもある。正恩氏がクーデターや暗殺の危険性を覚悟しながら、強い自尊心を捨てて、滞在費と航空便まで他国にお願いしてシンガポールに行った理由は、是非とも首脳会談を成功させたいという意思の表れだろう。

 一方、否定的な評価も根強い。北朝鮮が偽装平和を世界に見せつけるショーを演出しているという見方だ。今回の合意文に、完全で検証可能かつ不可逆的な非核化(CVID)が明記されておらず、しかも「約束、努力、協議」という文句が多いが、約束はいつでも破られる恐れがある。

 今のところ、米朝首脳会談の評価は肯定的なものと否定的なものとに分かれている。

 ただ、トランプ大統領は11月の中間選挙まで、まず、20個の核弾頭と大陸間弾道弾(ICBM)を解体して米国に搬出することを狙っている。北朝鮮の非核化の進展次第では、正恩氏を米国に招待して2回目の首脳会談を視野に入れている。今後、金正恩委員長の非核化意思の真実性が改めて問われることになるだろう。