シンガポールでの米朝首脳会談、韓国合流説が急浮上

 今月12日にシンガポールで開催される史上初の米朝首脳会談に韓国の文在寅大統領が合流する可能性が急浮上している。トランプ米大統領が朝鮮半島の終戦宣言に初めて言及したことによるものだが、北朝鮮の非核化を厳しく詰めることなく「終戦」話が始まれば、「3者によるうわべの平和ショー」との誹りは免れない。(ソウル・上田勇実)

トランプ氏「終戦宣言」に言及
“平和ショー”の上塗りも

 終戦宣言は4月の南北首脳会談で文大統領が金正恩朝鮮労働党委員長と「休戦協定締結65年になる今年」に行うことで合意し、その後、先月26日の南北首脳再会談について結果説明をした場でも文大統領は「米朝首脳会談が成功した場合、南北米3者首脳会談を通じ終戦宣言を推進できたらいいと期待している」と述べていた。

トランプ氏

トランプ米大統領(AFP時事)

 そして大きな影響を及ぼしたのがトランプ氏の発言。訪米した北朝鮮の金英哲党副委員長(兼統一戦線部長)との会談で、一度中止にした米朝会談を当初の予定通り行うことで合意したことを明らかにしながら、金副委員長と「終戦宣言に関し話し合った」とし、「米朝首脳会談に先立ち終戦に関する協議があるだろう」「会談で何か(結果が)出るだろう」と語った。

 報道陣向けのトランプ流リップサービスにすぎないとの見方もあるが、韓国側はすでに終戦宣言を視野に入れた文大統領の米朝首脳会談合流について、青瓦台(大統領府)は可能性が高まったとみている。

 朝鮮半島終戦宣言は文字通り朝鮮戦争(1950~53年)の終結を意味するが、政治的宣言にすぎず、それだけで南北間の軍事対立や米軍の韓国駐留という現状に実質的な変更がもたらされるわけではない。

金正恩氏

金正恩委員長(AFP時事)

 だが、当然、その後の手続きとして「終戦」を保証する措置が伴う。休戦協定の平和協定への転換や在韓米軍の撤収などだ。韓国で保守派を中心に終戦宣言への警戒感が根強いのは、それが本当の平和到来を告げるものではなく、その裏に北朝鮮による韓国支配の戦略が潜んでいる可能性が高いとみているためだ。

 このため「北朝鮮の平和協定締結路線は戦争協定締結路線も同然」(柳東烈元韓国警察庁公安問題研究所研究官)と警鐘を鳴らす向きもある。

 多くの専門家は、米朝会談はこれまでの双方のやりとりなどから判断し、北朝鮮に完全かつ検証可能で不可逆的な非核化(CVID)を厳しく詰める場にはなりにくいとみている。仮に文大統領が米朝会談に合流し、そこで「終戦宣言」が行われた場合、北に対する非核化圧力はさらに後退せざるを得ない。

文在寅氏

文在寅韓国大統領(AFP時事)

 そうなれば3者会談は「平和ショーにとどまりかねない米朝会談の上塗り」(柳氏)になる恐れもある。

 ただ、「米朝は韓国を自分たちのイベントに割り込んでくる部外者とみなし、決して主役扱いしない」(千英宇・元青瓦台外交安保首席補佐官)可能性がある。また韓国が合流すれば「米国としては1(米)対2(南北)の劣勢構図になるため嫌がる」(南成旭・高麗大学教授)ことも考えられる。韓国は招かれざる客なのかもしれないのだ。

 現在、文政権は米朝からの「合流許可待ち」状態で、シンガポールへの「招待状」さえ届けばいつでも合流する考え。13日の統一地方選で文大統領が期日前投票を検討していることが伝えられ、3者会談に備えた動きではないかとの観測も流れている。