同床異夢の南北首脳会談


 今月27日に韓国と北朝鮮の軍事境界線にある板門店で開催される第3回南北首脳会談では、来月末までの実施で準備が始まった米朝首脳会談に向け決定的な橋渡し役をしつつあると自負する韓国と、南北融和ムードを最大限に利用し制裁解除や体制保証を賭け米国との直談判に臨みたい北朝鮮との間で思惑のズレがある。肝心の北朝鮮完全非核化で何かしら道筋が付けられるか不透明だ。
(ソウル・上田勇実)

韓国、橋渡し役を自画自賛
北は融和テコに米に談判
北の宣伝・扇動で「国内対立」も

 「朝鮮半島問題の運転席に座る」と言っていた韓国の文在寅大統領にとって南北・米朝首脳会談の開催合意に至る展開はまさに「わが意を得たり」だったとみられる。韓国が望む南北会談と北朝鮮が望む米朝会談には「北朝鮮の非核化」が最大のネックとなって実現されなかったが、いきなり両会談の開催合意にこぎ着け、文政権がそれ自体に果たした役割は確かに大きかったからだ。

300

北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長(左)と韓国の文在寅大統領(AFP=時事)

 先月行われた南北首脳会談準備委員会で文大統領は「南北首脳会談に続き米朝首脳会談が開かれること自体が世界的な出来事」と自画自賛した。北朝鮮がひとまず核・ミサイル挑発路線を中断し、対話の場に出て来たことを文政権は高く評価している。

 しかし、北朝鮮側の思惑は全く異なる可能性がある。南北実務者会談の韓国側首席代表の経験がある文聖黙・元国防省対北政策課長は「過去と同じく難局打開のための一つの小細工として平和攻勢を仕掛けている」と警鐘を鳴らす。

 本番はあくまでトランプ大統領との会談であり、文大統領との会談はそのための融和ムードを拡大させる布石。過去2度の首脳会談で合意した北朝鮮ペースの南北統一推進や韓国による一方的かつ莫大な対北経済支援などの再確認も忘れていないだろう。

 青瓦台(韓国大統領府)が発表した南北首脳会談の三つの主要議題を見ると、ここでも韓国側と北朝鮮側で異なる解釈が生じる余地を残していることが分かる。

 「朝鮮半島の非核化」はすでに指摘されているように北朝鮮が自分たちの核保有を米国の核の傘に守られている韓国と同列に扱い、核の傘を撤収させることを大前提にしている。北朝鮮だけの非核化と限定されることを避けたい思惑の表れだ。

 「画期的な軍事的緊張緩和を含む恒久的平和定着」の場合、在韓米軍撤収と米韓合同軍事演習の永久的中断を条件に現在の休戦協定を平和協定に替えることを意味しているとの見方が根強い。「新しく大胆な南北関係の進展」には北朝鮮が2007年の第2回首脳会談で合意した数多くの南北経済協力事業の履行を期待しているのではないかとする疑いが持たれている。非核化以前のいかなる対北経済協力も制裁違反になる恐れがある。

 結局、「南と北は同じ用語を使ってはいるものの、その解釈は異なるという点を念頭に置いて韓国は交渉に臨むべき」(文元課長)なのだ。

 南北首脳会談ではまだベールに包まれているところが多い金正恩氏の一挙手一投足に世界の耳目が集まることになる。北朝鮮は今回の会談を「非核化に歩み出した金正恩氏」「話が通じる指導者」というイメージを効果的に世界に伝える宣伝・扇動の場にする可能性があるが、これがまたクセモノだ。

 こうした宣伝・扇動に最も影響を受けやすいのが同民族の誼(よしみ)に弱い韓国世論だ。韓国社会世論研究所が先月半ば実施した世論調査によると、南北首脳会談の開催について「非常に評価する」(47・5%)と「ある程度評価する」(34・0%)を合わせると、全体の8割超が評価していることが分かった。実際の会談で融和ムードが演出されれば世論の首脳会談への評価はさらに上がり、「金正恩評」まで一挙に肯定的になるかもしれない。

 そうなれば保守派を中心に南北首脳会談に懐疑的な世論と対立する、いわゆる「南々葛藤」が深まり、韓国社会は混乱気味になる。北朝鮮にとって願ったりの韓国分断だ。