韓国・文大統領、外交にも国内政治の論理
韓国の文在寅大統領は先週、日本、米国、中国、ロシアの周辺4カ国に派遣する特命全権大使に青瓦台(大統領府)で信任状を授与した。これで遅れていた対4カ国外交が本格始動することになったが、文大統領は4大使に国内の「政治的基準」に従うよう指示。外交現場に国内の政治論理が持ち込まれる可能性が出ている。
(ソウル・上田勇実)
4大使は駐日大使の李洙勲(イ・スフン)・前慶南大学教授、駐米大使の趙潤済(チョ・ユンジェ)・前西江大学教授、駐中大使の盧英敏(ノ・ヨンミン)・前「共に民主党」議員、駐露大使の禹潤根(ウ・ユングン)・元国会事務総長。
韓国は地政学的にこの4カ国に囲まれ、歴史的にこれら諸国の進攻や統治を受けたり、戦争で敵味方になってきた。また現在は北朝鮮の核開発や韓半島統一などの問題を抱え、これらをめぐり利害がぶつかる4カ国の狭間(はざま)に立たされている。韓国にとって4カ国外交は国の命運を左右すると言っても過言ではない。
ところが、文大統領は授与式で大使の使命について「わが国政府の国政哲学を代弁し、政治的基準も十分に備えた方々が必要」と述べた。これは事実上、文政権の政治路線に歩調を合わせる外交を要求したもの。譲歩を余儀なくされることの多い外交が国内政治論理で硬直化する可能性もある。
日韓関係で言えば、一昨年末のいわゆる「慰安婦」合意の見直しを公約した文政権は現在、年内をメドに合意見直しを進めており、新たな対立の火種になることが予想されている。韓国側が国内で「反日」感情を政治基盤固めに利用する限り、対日外交は強硬にならざるを得ない。
文大統領は今回、駐日大使の李氏に「北朝鮮の核問題で協力する」とともに「歴史問題を整理することと未来志向的発展のバランスの取れた外交」を指示したが、「歴史」への執着がどの程度なのかが「未来志向」に踏み出せるか否かのカギを握りそうだ。
駐英大使を歴任した趙氏以外はみな外交官の経験がないことも「外交の政治化」を可能にさせるとみられる。4大使はいずれも文大統領のブレーンか同じ与党出身議員で、文大統領が「師」と仰ぐ盧武鉉元大統領に心酔していた「親盧派」であり、今は「親文派」。外交官としての良心に従うより政治志向に傾く可能性は十分ある。
今の文政権の政治路線は闘争的だ。国政介入事件で罷免に追い込まれた朴槿恵前大統領を「積弊」と称して糾弾しているだけでなく、李明博元政権に対する政治報復とも言える動きにも熱を上げている。「親盧派」「親文派」にはいまだに「盧元大統領を自殺に追い込んだのは李政権」という恨みが根強く残っているとされる。
朴大統領を弾劾に追い込んだ一連のろうそくデモが政権交代の原動力になったことから、文大統領はこれを「ろうそく革命」と称えてきた。今後、駐日大使や駐米大使に対しても「積弊」や「ろうそく革命」の“精神”を継承させるつもりだろうか。
ただ、現在、日米中露4カ国は政治指導者のリーダーシップが強く、文政権がどこまで思い通りに外交を展開できるか未知数だ。
韓国は、先の衆院選挙で自公連立与党が圧勝し、安倍政権が「戦争ができる国」へ改憲を進めようとしていると警戒し、中国共産党大会で自らの名前を冠する思想を打ち出した習近平主席のさらなる覇権主義にも神経を尖らせている。
対北圧力を強めるトランプ米政権に対して文政権が目指す北朝鮮との対話の必要性を言い出せずにいる上、ロシアは独自に北朝鮮との接触を強め、「当事者」を演出したい韓国がそこに入り込む余地はない。
「ストロングマンたち(4カ国のリーダー)に囲まれたまま存在感がなくなりつつある韓国」(大手紙・朝鮮日報)の外交は前途多難だ。

と文在寅氏-217x300.jpg)




