中国爆買い特需にブレーキ
中国人観光客の爆買い特需に沸いていた韓国に異変が起きている。北朝鮮弾道ミサイル迎撃用の高高度防衛ミサイル(THAAD)を韓国が配備したことに中国政府が反発し、経済報復措置を発動したためだ。文在寅政権としては北朝鮮が先月、二度にわたり大陸間弾道ミサイル(ICBM)の発射実験を成功させたことでTHAAD配備の撤回はますます難しくなっており、事態打開の見通しは立っていない。
(ソウル・上田勇実)
THAAD配備に報復、観光客減
敷地提供のロッテも打撃
韓国銀行(中央銀行)のまとめによると、韓国の上半期サービス収支は旅行収支と運輸収支の悪化で157億万ドルマイナスを記録、半期別で過去最悪の赤字幅となった。赤字の原因は特に「THAADをめぐる中国側の措置の影響で中国人観光客が急減した半面、韓国人の海外出国者は急増した」(同行)ためだという。

韓国有数のリゾート地・済州島の空の玄関口、済州国際空港。中国人観光客の激減などで出発搭乗手続きのカウンターが閑散としている国際線ターミナル(上)と韓国人観光客でごった返す国内線ターミナル(下)=3日、韓国紙セゲイルボ撮影
中国人観光客減は韓国観光公社のデータが裏付けている。上半期における中国人の訪韓者数は前年同期比41・0%減の約381万7000人にとどまり、特に中国政府が韓国への団体旅行商品の販売を全面禁止した3月から6月末まででは同期比60・1%減となった。
経常収支などは依然として好調で経済全体への影響は限定的とも言えるが、韓国の中国特需にブレーキが掛かりつつあるのは確かだ。
中国人観光客の減少はTHAAD配備問題が表面化した昨年以降、顕著になっており、ソウルの観光名所の一つ、明洞に行くと中国人の姿がめっきり減ってしまったのを実感できるほど。中国語がそこかしこで飛び交っていた観光地はすっかり静かになっているという声も聞かれる。
中国による経済報復のあおりを最も受けている企業がロッテだ。ロッテは南東部・星州(慶尚北道)にあるグループ系列のゴルフ場をTHAAD配備用の敷地として提供し、中国の標的にされてしまった。
韓国メディアによると、大型ディスカウントストア「ロッテマート」の中国内店舗112のうち実に87店舗が営業中断を余儀なくされ、営業中の店舗も「当局主導の経済報復に便乗した中国人の不買運動が重なった」(聨合ニュース)ことで売上が激減しているという。
ロッテマートとともにソウル観光で多くの日本人が訪れる「ロッテ百貨店」を運営する「ロッテショッピング」の第2四半期売上高は、国内店舗や中国以外の海外店舗が好調だったにもかかわらず4・3%減、連結営業利益は49・0%減となっている。ロッテとしてはお得意さまだったはずの中国人消費者に足を引っ張られた格好だ。
THAAD配備に対する中国の経済報復措置に韓国メディアは「低姿勢を見せ振り回されるようなことはしないという強い意志を中国に示さなければならない」(ソウル新聞)、「脅しに屈するな。中国が安心して投資できる国ではないことを国際社会に知らしめるべき」(文化日報)などと強気の論調だ。そこには「中国頼みを脱して内需と他の外国との貿易で挽回する戦略」を念頭に置いていたようだ。
当初はTHAAD配備撤回を威勢良く叫んでいた文在寅政権も、北朝鮮が武力挑発をエスカレートさせ、逆に先月28日、THAADの残り発射台4基の追加配備を指示せざるを得なくなった。
ただ、米中バランサー外交路線を敷く文政権としては中国への配慮にも苦心している。文大統領の顧問格である李海瓉元首相は6月末、文大統領の訪米に合わせ約1カ月ぶりに再訪中し、非公式に王毅外相と会談してTHAAD配備の撤回が難しくなった事情の“弁明”に追われたが、「なぜ方針が変わったのか」と詰問されたとの報道もある。
今後もTHAAD配備撤回は難しい情勢が続くとみられ、中国重視の文政権としては当分の間、ジレンマに苦しめられそうだ。