きょう盧元大統領自殺から8年、 “聖地”で「反保守」鮮明に
韓国の文在寅大統領はきょう、盧武鉉元大統領の自殺から8年となる追悼行事に出席し、左派陣営の結束を図るとみられる。先に行われた光州事件追悼式でも過去の保守政権を批判するなど「反保守」を鮮明にさせた。
(ソウル・上田勇実)
全斗煥・朴槿恵両政権一括りに
光州事件の「精神」を支持
北朝鮮が愛唱の「闘争歌」も斉唱
巨額収賄容疑で検察の捜査を受けていた盧武鉉元大統領が自殺したのは保守系の李明博政権だった2009年5月23日。ソウルの古宮・景福宮で行われた葬儀では盧氏に近かった国会議員らが李政権に向かって「人殺し」と叫ぶ場面も見られ、保革対立の根深さを印象付けていた。
きょうは盧氏自殺から8回目の命日で、自宅があった南東部・慶尚南道金海市の烽下村で追悼行事がある。保守政権時代で執り行われた過去7回とは異なり、今回は左派政権下で初めて。しかも盧氏と長年親交を深め、青瓦台(大統領府)の秘書室長として最も近くで盧政権を支えた文在寅氏が大統領になって初めて迎えるとあって、これまでになく盛大に行われる見通しだ。
盧元大統領の死、葬儀、その後の追悼行事は、韓国左派陣営にとって反保守勢力の求心力となってきた。先の韓国大統領選で当選した文氏自身、与党・共に民主党の主流派で親盧派と呼ばれるグループの筆頭格である。9年ぶりに政権交代を成し遂げた文大統領は今回の追悼行事に「特別な思い」を抱いているのは間違いない。
一方、今月18日には南西部・全羅道光州市で、民衆蜂起と鎮圧軍の衝突で多数の犠牲者を出した光州事件の37周年追悼式が行われ、出席した文大統領は「反保守」色を打ち出した。
文大統領は演説で「5月、光州は偉大なろうそく革命として復活した」と指摘し、自らのことも「文在寅政府は光州民主化運動の延長戦上に立っている」と述べた。クーデターを起こした全斗煥政権に対する抵抗と、国政介入事件を招いた朴槿恵政権に対する反発を「反保守」で一くくりにし、その「精神」をもって自分たちは政権運営に臨むと宣言しているわけだ。
また文大統領は、光州事件の遺族が14年のセウォル号沈没事故の遺族に送った激励の手紙を「国民の命を踏みにじる国家と国民の命を守れなかった国家を痛烈にとがめる叫び」と言い表し、ここでも全・朴両政権に対する批判を展開した。
追悼式では事件の象徴歌「あなたのための行進曲」が9年ぶりに斉唱されたことも物議を醸した。この歌は軍事独裁に抵抗する民衆の思いが込められているという意味以上に、北朝鮮が「南朝鮮革命(韓国共産化)」のために愛唱している「政治的闘争歌謡」の性格を帯びている点が何より問題だ。
1980年代末、親北派女学生を北朝鮮に密入国させ、金日成主席に会わせた容疑で逮捕されたことのある任鍾皙・青瓦台秘書室長が、追悼式で嬉々(きき)としてこの歌を歌う場面がテレビに映し出されもした。
韓国は北朝鮮といまだ休戦状態にあることなどが影を落とし、政治や社会の保革対立が激しく、政権交代のたびに報復が行われてきた。そうした悪弊の清算を口にしてきた文大統領が今後どのような政権運営をするのかを占う上で、今回、「“湖南(全羅道)の聖地”光州と“嶺南(慶尚道)の民主党聖地”に当たる金海烽下村」(韓国紙・文化日報)での二つの追悼式が示唆するところは少なくない。