日韓関係、「慰安婦」合意の見直し必至
「『和解・癒やし財団』の業務を一時停止してもらうことになると思う」
韓国大統領選が迫っていた先月、文在寅候補(当時)の外交ブレーンである金基正・延世大学教授は同財団の理事の一人にこう漏らした。理事は本当にそういう通達が来れば辞任すると金教授に伝えたという。
「ボランティアとして、どこまでも韓日関係のために良かれと思って引き受けた仕事なのに、新しい政権に入って(韓日合意の)価値を知らない人が見直しに取り掛かるのであれば、こちらとすればやっていられない」(理事)
同財団はすでに理事2人が辞任している。一人は本職の弁護士団体から圧力がかかり、もう一人は民間ポストに就任する際に政治活動の自粛を促されたためだが、これ以上メンバーが減れば定款上、議案があっても議決できなくなる。関係者の間では後追い辞任が増えるとの見方が有力で、財団は事実上、解散に向け動きだしている。
「私たちがここで少女像を守っていなくても当然ここにあると安心して思えるようにしてほしい」
10日正午、在ソウル日本大使館前の慰安婦像を囲んだ定例の「日本軍性奴隷問題解決のための水曜デモ」に参加した女子大生はこう呼び掛けた。学生は「慰安婦」合意の直後から日本側が慰安婦像の撤去を要求しているとして撤去阻止の篭城を続ける学生グループの一人。今週、篭城500日目を迎える。
水曜デモを主催してきた韓国挺身隊問題対策協議会(挺対協)は集会で「文大統領が強調した『積弊清算』は慰安婦合意の破棄にほかならない」と述べ、日本政府に「公式謝罪と法的賠償」を、また韓国政府には「合意の即無効化」「『和解・癒やし財団』の解散と10億円の日本への返還」を求めた。
合意以降、財団を通じて癒やし金を受け取る被害者が増え、一時デモは勢いを欠いたかに見えた。だが、合意見直しを口にする文大統領の当選で息を吹き返している。
文政権の登場で対北朝鮮と共に政策転換が予想される対日関係。果たしてどこまで「反日」ぶりを発揮するのかという不信感が日本側にはくすぶる。
前述の金教授は先月、ソウル外国特派員協会(SFCC)で会見した際、文氏が政権を握った場合の日韓「慰安婦」合意について「合意に至った経緯、国民受容の度合いなどを時間を割いて十分に見直す可能性がある」とした上で、「見直しの期間、再交渉を韓日外交関係の入り口に置くことはしないだろう」と述べた。
韓国外交の喫緊の課題は北朝鮮弾道ミサイルを迎撃するTHAAD(高高度防衛ミサイル)システムの配備をめぐりぎくしゃくする米国、中国との関係修復だ。優先順位から判断し、今いたずらに日本との関係を悪化させる必要はないと考えるのが順当だろう。
しかし、遅くとも「演説で対日政策を打ち出さざるを得ない8月15日の光復節(日本統治時代からの解放日)行事までにはその輪郭を決めなければならない」(日韓関係筋)。文大統領の周辺からは「慰安婦」問題など歴史認識とは別に安全保障や経済など協力すべき分野は話し合いを進める「ツー・トラック」戦略だと言う話も聞こえ、日本側には不安と期待が交錯しそうだ。





