仮想通貨の窃取に拍車、北サイバー攻撃

制裁やコロナで外貨不足
核・ミサイル開発の資金源に

 北朝鮮がサイバー攻撃を通じた仮想通貨の窃取に拍車を掛けている。国際社会による制裁や新型コロナウイルスの感染防止に向けた中国との国境封鎖などに伴う外貨不足を補うのが狙いとみられる。これらは核・ミサイル開発の資金源になっている可能性が高いといい、憂慮される。
(ソウル・上田勇実)

日本も標的

 国連安全保障理事会の北朝鮮制裁委員会の下で制裁違反を調べる専門家パネルがこのほどまとめた報告書によると、北朝鮮は2019年~20年11月の間に仮想通貨取引会社へのサイバー攻撃を通じ、推計3億1640万ドル(約333億円)を盗んだ。これらは「核・ミサイル開発の資金源になっている可能性がある」(報告書)という。

1月5日、平壌で開幕した朝鮮労働党第8回大会で、党中央委員会活動に関する報告を行う金正恩委員長(朝鮮通信・時事)

1月5日、平壌で開幕した朝鮮労働党第8回大会で、党中央委員会活動に関する報告を行う金正恩委員長(朝鮮通信・時事)

 またロシアのコンピューターセキュリティー会社「カスペルスキー」の関係者は先月、韓国マスコミへの取材に「北朝鮮のサイバー攻撃は昨年、回数も増え規模も大きくなった」と明らかにした。

 同社は昨年1月にまとめた報告書で、仮想通貨窃取の具体的手法を紹介。例えば、ハッカー側が偽の仮想通貨会社をつくり、そこから人気メッセージアプリを使い、悪性コードを送り込むことで仮想通貨ユーザーを攻撃していたという。

 米国の情報セキュリティー会社「チェイナリシス」は昨年9月、北朝鮮が15年からの5年間に仮想通貨窃取で得た外貨は総額16億1500万ドル(約1700億円)ほどに達すると明らかにした。年平均3億ドル以上の仮想通貨が北朝鮮によって盗まれていることになる。

 北朝鮮問題の専門家らは、北朝鮮が仮想通貨窃取に拍車を掛けている背景に外貨不足があるとみている。

 国連の対北制裁によって、それまで外貨稼ぎを主導していた石炭や水産物、鉄鉱石などの輸出が禁じられ、当局への“上納”が義務付けられてきたとされる海外就労の出稼ぎ労働者たちも帰国を命じられた。昨年1月にはコロナ防疫のため貿易ルートの大半を占めていた中朝国境が封鎖され、両国間の貿易は昨年、公式統計で8割減少した。

 北朝鮮はこうした外貨不足を補うため、サイバー攻撃による仮想通貨の窃取にのめり込んでいるとみられる。

 秘密工作機関「偵察総局」の傘下に多数の専門要員を擁するといわれ、その技術的レベルは世界トップクラスに達するともいわれる。北朝鮮国内や海外拠点などに居ながらにして攻撃し、しかも相手に犯行を暴かれにくく、仮に暴かれたとしても加害者が処罰を受ける道は事実上閉ざされている。北朝鮮にとってこれほど低コストで済み、低リスク高リターンが望める外貨獲得手段はないといっても過言ではない。

 日本でも18年に仮想通貨交換業者「コインチェック」が顧客から預かっていた仮想通貨約580億円分を不正に流出される事件が起き、北朝鮮のハッカーによる仕業との見方が国連報告書に一時記載されたこともある。日本も北朝鮮のターゲットになっていることをうかがわせる出来事だ。

 北朝鮮のサイバー攻撃に詳しい柳東烈・元韓国警察庁治安問題研究所研究官によると、北朝鮮は19年、平壌で仮想通貨に関する国際会議を秘密裏に開催した。会議の最大の狙いは仮想通貨をめぐるセキュリティー上の情報や技術の習得だったという。

 この会議にはビットコインに次ぐ時価総額を誇る仮想通貨イーサリアムの関連会社で働く米国人が参加し、技術情報を提供したとして米連邦検察当局に起訴された。北朝鮮側からは「IT専門家を装った軍や偵察総局所属のサイバー攻撃専門部署の要員が大挙して参加した可能性が高い」(柳氏)という。

 北朝鮮が仮想通貨窃取を防ぐセキュリティーの裏をかくため、どれだけ研究に熱心なのかを物語るものだ。

 韓国メディアによると、韓国の情報機関、国家情報院は「2021年度サイバー脅威」という報告書を関係機関に配布し、今年は仮想通貨を狙った北朝鮮などによるハッキングが横行するとして警鐘を鳴らしている。