統一相の「親北」巡り舌戦 韓国国会
保守系野党の太永浩議員が追及「転向したか」
李仁栄統一相は論点ずらす「強要は駄目」
野党は反米も問題視/対北支援を促す与党
韓国の新しい統一相に内定していた李仁栄・前共に民主党院内代表の国会人事聴聞会が開かれ、親北反米の左翼学生運動のリーダーだった経歴などをめぐり舌戦が繰り広げられた。結局、李氏の思想転向は確認できず、27日正式に任命されたが、南北関係に責任を負う韓国の閣僚が自ら北朝鮮主導を容認する可能性がでてきた。
(ソウル・上田勇実)
韓国では新閣僚に内定すると、必ずその是非を問う国会人事聴聞会が開かれ、所属の与野党議員から任命同意を得なければならない。これまで本人や家族をめぐる兵役忌避、不動産投機、学歴詐称などで追及をかわし切れず、“落馬”したケースも多々ある。
李氏も息子の兵役免除が問題視されたが、それとは別に注目を集めたのが李氏の親北朝鮮的な考え方についてだった。今回の聴聞会で一番白熱したのもその関連部分。北朝鮮外交官出身の脱北者で4月の総選挙で当選した保守系野党・未来統合党の太永浩議員による質疑では次のような応酬があった。
太氏「私が北朝鮮にいた時、南朝鮮(韓国)には主体思想信奉者が非常に多いと聞いた。(李氏が所属した)全国大学生代表者協議会(全大協)のメンバーは毎朝、金日成の肖像画の前で南朝鮮を米帝植民地から解放するため忠誠を誓うと聞いた」
李氏「誇張された話だ」
太氏「多くの人が私に思想転向したのかと尋ねる。候補者(李氏)はいつ、どこで主体思想を捨てたのか。主体思想信奉者ではないと公言したことはあるか」
李氏「私に思想転向の有無を尋ねるとは穏やかではない。北では思想転向を強要するかもしれないが、南では思想・良心の自由があって強要しない。南の民主主義に対する太議員の理解度は低いと言わざるを得ない」
太氏は転向の有無を明言しない李氏に業を煮やしたかのように「国民の前で正直にもう主体思想は捨てたと言うのがそんなに難しいことか」と問い詰めた。すると李氏は「その当時も今も主体思想信奉者ではない」としながらも、「思想検証と思想転向の強要は全く違う話。転向強要は北と南の独裁政権だけだ」と論点をずらした。
このやり取りを見ていた与党議員たちは「李候補は浅はかな思想検証の対象になるような人物ではない」(尹建永議員)などと色をなして太議員を非難。「質問自体に過敏に反応した」(金起●(=火へんに玄)・未来統合党議員)理由が何かを逆に疑われる場面にもなった。
聴聞会では李氏の反米的な過去も指摘され、「韓米同盟は米国が強要したのか韓国が選択したのか。在韓米軍は韓国に対する占領軍か」(朴振・未来統合党議員)と問われた。しかし李氏は「強要か選択かは別にして…」「占領軍というのは一部の主張で普遍的ではない」などと言葉を濁した。
李氏は冒頭の発言で「朝米の時間を南北の時間に取り戻すため主導的に大胆な変化をつくり出していく」と語り、政策の優先順位を米朝対話の仲介から南北経済協力に移す方針を示唆した。
これと関連し、有力な次期大統領候補として存在感を示す李洛淵・前首相は質疑で、2017年の米韓首脳会談での共同宣言に「非核化ではない一般的な南北関係の改善で韓国が主導的役割を果たすことをトランプ大統領が支持するとなっている」ことを挙げ、統一省が管轄する金剛山観光の再開を促した。
国際社会が対北制裁網を維持・強化する中、李氏は非核化問題を棚上げしたまま韓国独自で北朝鮮経済支援に乗り出すのではないかという観測が広がっている。