仏大統領 デモ沈静化へ国民に謝罪


最低賃金増額など公約

 フランスのマクロン大統領は10日夜、4週目を迎えた黄色いベスト抗議運動がエスカレートしていることに対して、初めて公式演説を行った。フィリップ首相が示した2019年の燃料税引き上げなど増税策の取り下げに加え、最低賃金引き上げ、残業代やボーナスの非課税など即効力のある新しい政策を打ち出し、国民に理解を求めた。

マクロン大統領

フランスのマクロン大統領=10日、パリ(EPA時事)

 抗議デモの激化による政権の混迷で注目されたマクロン氏の声明では、まず、暴力と正当な要求を表明する権利は相反するものだとして「政府は暴力を容赦しない」と述べた。その上で全ての国民の生活を改善する改革が自分の政権で十分進んでいないこと認め、一部の国民を傷付ける発言を行ったことを謝罪した。

 マクロン氏は、来年1月からの新施策の基本として、「経済的・社会的非常事態宣言を発動する」と表明し、将来を担う子供たちの教育や職業訓練への投資を増やし、「人々がより良く働き、豊かな生活ができる」環境づくりを最優先にして取り組むことを約束した。

 具体的には、法定最低賃金について、企業に負担させることなく月額100ユーロ(約1万3000円)引き上げ、残業代を非課税とし、残業分の社会保障税負担を免除し、可能な限り多くの企業に年末のボーナスを支給するよう要請し、ボーナスも非課税とするとした。

 また、年金最低額受給者の一般社会税の増税を取り消し、今後は社会的弱者の支援を強化する一方、これまで企業寄りと批判されてきた政権の方針転換として、大企業などへの増税を示唆した。

 フランス政治の根底からの改革を期待されて大統領に就任したマクロン氏だったが、庶民の声に耳を傾けず、大企業や富裕層を優遇する政策を強引に押し通そうとしたという印象が国民に広がり、燃料引き上げ反対に端を発するデモで不満が一挙に噴き出した形だ。

 今回の演説は方針の大きな転換を行うもので、尊大というイメージが定着していたマクロン氏が国民に謝罪し、今後は国民の声に注意深く耳を傾け、施策はすぐに実行し、国民に結果を実感してもらうと表明し、鎮静化を図っている。

 ただ、土曜に行われる黄色いベスト運動が、次の15日に向けて収束する見通しは立っていない。弱者向けの施策の中に障害者が含まれていないことを批判する声や、逆に弱者への支給額を増加させる一方で、増税を断念したことで財源確保を疑問視する声も上がっている。ただ少なくともマクロン政権の「第2幕が始まった」と仏メディアは報じている。

(パリ安倍雅信)