ロンドン橋襲撃事件 IS収監者抱える仏に波紋


 英ロンドン中心部ロンドン橋付近で先月29日に起きた2人の死者を出した通行人襲撃事件で、ウスマン・カーン容疑者は、イスラム過激派として8年間の刑務所収監の経緯があったことから、聖戦主義過激派の収監者が最も多いフランスにも波紋が広がっている。

英武装警官

11月29日、ロンドン中心部のロンドン橋で起きたテロを受け、現場一帯に展開する英武装警官(AFP時事)

 フランスには過激思想に染まり、危険とされる収監者は現在、約500人、聖戦主義の影響を受けたが危険性が低いとみられる収監者は1000人に上る。内務省によれば隔離スペースは1500必要との見解で足りていない。今後、トルコやシリア北部から追放される過激派組織、イスラム国(IS)元戦闘員やその妻が帰国後収監予定だ。

 英国より多くのテロを経験してきたフランスでは、2016年7月に起きた仏北西部ノルマンディー地方のカトリック教会で神父を刃物で殺害した2人の犯人の1人は、刑務所から仮釈放されたばかりで、足にはブレスレットを着用していて犯行に及んでいる。

 イスラム聖戦主義は刑務所内で広がる傾向があり、フランスでは現在収監中の危険とされる服役者は、完全に独立した独居房に入れられ、他者と接触させない措置が取られている。しかし、問題は釈放後の再犯で、ロンドンのカーン容疑者は釈放後の当局のケアに感謝を表明しながら、更生をサポートしていた人物を今回殺害している。

 フランスのテロ専門家は、釈放時に聖戦主義を捨てるような意思表示をしながら、機会をうかがい、再びテロを実行する例は少なくないと指摘する。釈放後も更生施設に収監する方が安全だという意見もある。

 フランスでは約1万9000人が過激思想に染まっているとみられ、対策チームがケアしているのは、2600人の個人と800家庭にとどまっているとしている。対象の多くは実刑判決を受け収監された経験がある一方、数の多さから当局の監視には限界があり、予算も限られている。

 昨年、フランスではテロへの直接、間接の関与で収監され、刑期を終えた約20人が釈放され、今年12月末までに30人が釈放される。さらに軽犯罪などで収監され過激な思想に感化された受刑者約1200人のうち200人が年末までに出所する予定だ。ロンドンの事件を受け、不安の声が上がっており、マクロン政権も何らかの対策を迫られている。

(パリ・安倍雅信)