フィリピン中間選挙で大統領派が圧勝
 フィリピンで13日に中間選挙の投開票が行われ、ドゥテルテ大統領の高い支持率を背景に与党が圧勝した。政権運営の要となる上院選では、ドゥテルテ氏の側近とも言える候補が多数当選。野党は完全に敗北を喫した状況で、さらに強権体制の強化が進むと考えられている。
(マニラ・福島純一)
麻薬戦争、連邦制移行を推進か
票買収は「不可欠」 ドゥテルテ氏
中央選管の15日までの非公式集計によると、改選される上院12議席のうち9人がドゥテルテ氏を支持している候補者で、残る3人も無所属ながら政権寄りの候補者だ。野党候補は当選圏内に一人もいない。
最新の世論調査では、ドゥテルテ氏の支持率は81%と、任期後半を迎えた大統領としては異例の高い人気を維持しており、これを追い風に与党候補が順調に得票を伸ばした形だ。
当選圏内には、ドゥテルテ氏の側近である元大統領特別補佐官のゴー候補や、麻薬戦争を指揮した元国家警察長官のデラロサ候補をはじめ、長期独裁政権で有名な故マルコス大統領と、現下院議員のイメルダ・マルコス氏の長女であるアイミー・マルコス候補も顔を並べた。
また、アキノ政権下で汚職で逮捕され、ドゥテルテ政権下で釈放された元上院議員で俳優のボン・レビリア候補も当選圏内にいるなど、アキノ前大統領派を中心をとする野党勢力の縮小が鮮明となった。投票前の世論調査で唯一上位12人に食い込んでいたアキノ前大統領の甥(おい)の現職バム・アキノ上院議員も敗北が濃厚となるなど、このままなら上院24議席のうち反ドゥテルテ派は6人から4人へと減少する。
今回の選挙で与党の勢力拡大に成功したことで、ドゥテルテ氏は任期後半も現在の強権体制を安定して維持し、超法規的殺人などの人権問題で国際的な批判を集めている麻薬戦争や、難航している連邦制への移行などを推し進めると考えられる。ただ、麻薬戦争などをめぐる人権問題で、海外からの批判がさらに高まる可能性もありそうだ。
大統領の任期6年の折り返しに行われる中間選挙では、大統領の任期前半に対する信任が問われ、次期大統領選を占う試金石ともなる。次期大統領選をめぐっては、ドゥテルテ氏の娘でダバオ市長に再選を果たしたサラ・ドゥテルテ氏が有力候補とされているが、ドゥテルテ氏の発言は二転三転しており、まだ先が読めない状況だ。ただ今回の選挙の大勝が大統領選に有利に働くことは間違いなく、これを機に候補者選びも本格化すると考えられる。
フィリピンの選挙では毎回のように候補者の殺害や投票妨害などの暴力事件が問題となるが、国家警察のアルバヤデ長官は、「選挙は平和的に行われた」と分析し、概(おおむ)ね問題がなかったとの見解を示した。国家警察は選挙関連の暴力事件が、前回2016年に行われた選挙の192件と比べ、今回は43件で約60%の減少となったと発表。治安の改善を強調した。
とはいえミンダナオ島の南ラナオ州では、武装集団が投票所を警備する兵士に、爆弾を投げ付けようとして失敗する事件が起きるなど、投票日は各地で緊張が高まった。国家警察によると、今回中間選挙で票買収をめぐり411人が逮捕された。しかし、候補者の関与を立証するのが困難で、立候補を取り消された候補者はほぼいないという。つまり“野放し”というのが現状だ。
ドゥテルテ大統領は13日に地元ダバオ市で投票を終えた後の記者会見で、票買収について「フィリピンの選挙で不可欠なもの」と述べ、社会に根付く習慣で根絶は難しいとの持論を展開した。さらに「投票所まで行くお金も食べ物もない有権者にそれを与えているだけで、必ずしも票を買っているわけではない」とも釈明し、「フィリピンが貧困国である限りこの習慣は続くだろう」と述べ、今後もこの悪習は残るとの見方を示した。
フィリピンの選挙では投票率が7割を超えるほど国民の高い関心を集めるが、貧困層にとっては現金がばら撒(ま)かれる「お祭り」と化している側面も否定できない。腐敗した政治家や格差を批判する一方で、票買収を受け入れて投票権を売り渡し、腐敗構造を加速させるという貧困が招く悪循環は、社会構造の一部として残り続いている。











