フィリピン大統領選の世論調査、ビナイ副大統領が単独首位に
5月に行われるフィリピンの大統領選挙は、候補者が出そろい国民の関心も高まっている。毎月のように発表される世論調査では、活発に順位が入れ替わる混戦状態が続いており、まだ有権者の意思は固まっておらず、どの有力候補にも当選の可能性が見える状況だ。一方、イスラム過激派の活動が活発なミンダナオ島では、送電用の鉄塔が爆破される事件が相次ぎ、選挙への影響も懸念されている。
(マニラ・福島純一)
今月初旬に行われた大統領選に関する世論調査がこのほど発表された。民間調査会社のソーシャル・ウェザー・ステーション(SWS)が全国で1200人を対象に行った世論調査によると、31%の支持率でビナイ副大統領が単独首位に返り咲いた。先月に発表された調査では、ポー上院議員が26%を獲得し、ビナイ氏と同率の首位となっていたが、今回の世論調査でビナイ氏が一気に引き離した格好だ。
一方のポー氏は、中央選管に候補者資格の失格を言い渡されたことが響き、24%に落ち込み2位に後退。アキノ大統領が後継指名した与党の公認候補であるロハス前内務自治長官は、前回の21%から22%と微増し、出馬を表明した当初と比べ、順調に支持を伸ばしている。ロハス氏は昨年の3月の調査では15%まで支持が落ち込んでいた。また出馬表明直後の世論調査でいきなり首位となったダバオ市長のドゥテルテ氏は、数々の過激な発言の影響か、20%まで支持を落とし4位となっている。
ビナイ氏は2014年12月の世論調査で、37%という高い支持を集めトップを独走していた。しかし、マカティ市長時代の庁舎建設をめぐる予算の水増し疑惑が浮上し、クリーンなイメージが崩れ、支持を落とす結果となった。この水増し疑惑は、当時市長だったビナイ氏の息子にも波及し免職処分が下され、現在は長年にわたりマカティ市政を牛耳ってきたビナイ一族とは関係のない副市長が代理として市長を務めている。
ここに来てビナイ氏が盛り返しているのは、汚職疑惑の追及が時間とともに沈静化していることに加え、失格問題を抱えるポー氏の不安定な立ち位置が大きい。それだけでなく、海外比人労働者が抱える問題の支援で、積極的に海外に足を運ぶなど、庶民から信頼を集めている側面もあるようだ。フィリピンでは国民が大統領選に変化を求める傾向が強く、今回の世論調査でビナイ氏は依然として魅力的な野党候補であるということが浮き彫りとなった。
ポー氏は無所属を通している一方で、アキノ政権の功績を認め政策を引き継ぐ方針を示しており、現状に満足する有権者にも、さらなる可能性を求める有権者にも求心力を発揮し、支持を急速に伸ばしてきた。一方、ロハス氏は家柄や政治家としての実績は申し分ないが、国民にとってはアキノ大統領をただ引き継ぐだけの刺激が少ない候補者に映るようだ。
ポー氏の失格問題をめぐっては、中央選管の決定の破棄を求め、最高裁で口頭弁論が始まっており、まだ大統領候補として復活できる可能性が残されている。しかし裁判が長引く可能性もあり、支持率への影響は避けられそうにない。
一方、同時に行われた副大統領選の世論調査では、ポー氏とペアを組むエスクデロ上院議員が28%でトップとなった。しかしポー氏の失格問題の影響か、前回から2ポイントの減少となり、マルコス上院議員が25%を獲得し3ポイント差に迫っている。マルコス氏は前回の19%から6ポイントの増加となった。マルコス氏は言わずと知れた、独裁政権のフェルディナンド・マルコス元大統領の息子で、母親のイメルダ夫人は大統領就任を熱望していると伝えられている。
また選挙をめぐっては、ミンダナオ島中部で送電用の鉄塔が何者かに爆破され、停電が起きる事件が多発しており、中央選管が強い懸念を表明している。昨年に爆破された鉄塔は16基に達し、今年に入り既に2基が破壊されているという。イスラム過激派の犯行が疑われているが、犯行声明などは出ていない。万が一、投票日に停電が発生すれば、電子投票用の機器がバッテリー切れで使用不能に陥る可能性もあり、中央選管は発電機の準備を行う一方、治安当局に厳重な警戒を求めている。