フィリピン台風被害で深刻な食糧不足と治安悪化
救援物資届かず略奪横行
フィリピン中部を横断し、各地に深刻な被害をもたらした台風30号(フィリピン名ヨランダ)。時間が経過するにつれ、その甚大な被害の全貌が明らかになり始めている。世界各国から支援の手が差し伸べられる一方、政府の遅い対応に被災地からは不満が出始めており、食料を求めて略奪行為が横行するなど治安の悪化も深刻化している。
(マニラ・福島純一)
難航する遺体収容 集団埋葬方針には批判も
猛烈な勢力の台風30号は、フィリピン中部のレイテ島などに高潮を発生させ、沿岸部の街に壊滅的なダメージを与えた。国連人道問題調整事務所(OCHA)が16日に発表したところによると、これまでに判明した死者は3600人に達し、190万人が避難を余儀なくされている。特にタクロバン市の被害は深刻で、市当局によると、これまでに判明した死者の大半を占める。孤立している集落など、被害状況が不明の地域もあり、今後さらに死者が増加する可能性もある。一方、16日の政府当局の発表では、死者は3633人、行方不明者は1179人となっている。
アキノ大統領は、海外メディアのインタビューにおいて、「死者は多くても2000人から2500人程度」と述べ、先に被災地の警察当局者がメディアに語った死者1万人という推測を強く否定していた。しかし、一夜にして死者・行方不明者が5000人近くに膨れ上がる結果となるなど、政府の状況把握の甘さは批判を集めそうだ。
被災地では、極度の食糧不足に加え、治安の悪化が深刻化しており、被災に乗じて刑務所から脱走した囚人が、強姦(ごうかん)や強盗を繰り返しているなどの情報も流れるなど、無防備な被災者はさらなる緊張にさらされている。そのため、安全と食料を求め、被災地からの脱出を目指す人々が空港やバスターミナルに殺到し、少ない座席を奪い合っている事態が続いている。
レイテでは、政府のコメ貯蔵施設が食料を求める数千人の被災者に襲撃され、およそ10万袋のコメが略奪される騒ぎがあり、この際に建物の壁が倒壊し、この下敷きになった8人が死亡した。
14日に現地を視察した国連関係者は、被災から既に6日が経過しているにもかかわらず、依然として支援物資が届いていない地域があると述べ、政府の対応の遅れを指摘。48時間以内に改善するよう強く求めた。
支援物資の配給の遅れに関して政府は、被災地までの陸路が断絶していることに加え、災害で壊滅的な被害を受けた地域では、多くの職員や警官が死亡するなどして、自治政府がまひ状態に陥っており、食料配給などの活動が難航していると説明している。インフラの早期復旧が求められているが、電力の回復に関してエネルギー省は、治安が悪化していることから作業は難航するとの認識を示し、復旧には少なくとも6週間程度は必要と説明している。
また時間が経過するにつれて大きな問題となっているのが遺体の回収だ。依然として路上に遺体が放置されているような地域も少なくなく、遺体の腐敗が激しさを増しており、衛生状態の悪化が急速に進んでいる。そのため感染症などの流行も懸念されており、地方自治体は、苦渋の決断として遺体の集団埋葬に踏み切る方針を示している。しかし、残された遺族などからは、身元不明のまま埋葬することに反対する意見も出ており、国連からも集団埋葬が人権侵害であるとの指摘も出ている。
難航するフィリピン政府の救援活動に非難が集まる中、国際社会からの支援に期待が集まっている。米政府は原子力空母ジョージ・ワシントンを派遣し救援活動を行う方針を示し、既に現地にオスプレイなどの輸送機を向かわせ、支援物資の空輸を実施している。また日本政府も1000人規模の自衛隊を派遣し、被災地の復旧を支援する方針を固め、さらに総額5210万㌦(約52億円)の緊急無償資金協力も実施する。
特に日本の自衛隊は、東日本大震災での実績もあることから、現地ではその活躍に大きな期待が寄せられている。15日には日本の緊急援助隊がレイテ島に到着しており本格的な医療活動を開始する。
一方、日本政府によると、15日までに被災地のレイテ島とサマール島に住む日本人133人のうち、まだ41人と連絡が取れていない状態となっており、安否の確認を急いでいる。